インドの山奥で部屋をシェアしていた奴が、いつもカーペンターズを聴いていた。
オレは、知っての通りのロックン・ローラーで、そんな甘ったるい曲聴けるかよ、って、本人には言えないけど内心いつもそう思っていた。
そいつは、 そこで出会ったタトゥー職人に、キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラ、のタトゥーを入れてもらっていたような奴で、お前がカーペンターズって柄かよ、って、これまた内心いつもそう思っていた。
先日、NHKか何かの番組で、カーペンターズの特集をやっていた。
何の気なしにそれを見ていたぼくは、歌うカレン・カーペンターの姿を見て、戦慄を覚えた。
決して美人とは言えない彼女は、むしろ、陰惨な印象をかもし出していた。やつれた顔の輪郭、太い眉、薄い唇、青ざめた顔色。
しかし。
しかし。
彼女の笑顔。
はち切れんばかりのその輝き。
あんまり眩しいその輝きは、明るい気分を通り越してむしろ、悲しみを表現していた。
オレは、何だか知らないけど、涙が止まらなかった。
あの表情は、あの笑顔は、決して簡単なものではなかった。
決して、お愛想や、付き合いで作ることのできるものではなかった。
深い悲しみや、寂しさを知っている人だけにしかできない微笑み方だった。
オレはそんなことを思いながら涙が止まらなかった。
本当に止まらなかった。
何でだろう? 何でそんなに辛い思いをしなくちゃならないんだろう?
彼女は、彼女は、きっと、強く求めているものが目の前にあるのにもかかわらず、目の前にあるそのものと自分との間に絶望的に永遠の隔たりのあることを知っている人だったんだろう。
目の前にあるのに、決してそれに触れることのできないもどかしさ。
それを確信している、不幸。
欲しいものにはいつだって手が届かない。
遠い雲の上。
なんて、不幸な人生なんだろう。
なんて、悲しい人なんだろう。
でも。
笑ってる。
彼女はいつも笑ってる。
永遠の孤独を知っていて、もはやそれに抗うことすら諦めて、それを受け入れようとしている。
そのために歌う。
魂をしぼりあげて歌う。
だから。
彼女の声は美しい。
この世のものとは思えないぐらい、美しい。
オレは思うんだ。
彼女の歌声には、神さまが宿っていると。
彼女は、きっと、その歌声で、神を表現しようとしているんだと。
愛に溢れてる。
胸いっぱいの愛だ。
こういう人が、いたっていうことは、オレに希望を与えてくれる。
偽物ばかりの世の中で、嘘やまやかしだらけの世の中で、こういう本当の人が確かに存在したという事実は、オレに生きる希望を与えてくれる。
とても優しい気分にさせてくれる。
世界のてっぺんに腰掛けて、眩いばかりの笑顔を振りまいて、みんなの幸せのために歌う。
みんなの幸せのために、命を削って歌い続ける。
ああ、カーペンターズって素晴らしい。
本当に、素晴らしい。