一昔前に流行ったティラミスというケーキ。
オレはそんなに好きではなかった。
食ってみても、ふーんって感じ。
でも。
イタリア行って食ったとき、
こんなにうまいものだったのか、と思って感心した。
調べてみると、マスカルポーネチーズなるクリームチーズと、
卵を泡立てて作るらしい。
それをコーヒーやラム酒で仕上げるのだそうな。
なるほど、そんな味がしていたような気がする。
”ティラミス” というのはイタリア語で、
“わたしをハイにして” という意味だそう。
何とも意味深な、エロティックなネーミングではないか。
この辺からしてイタリアで食ったティラミスは、
果たして名前通りであった。
実際、ハイ、になった。それはとろけて天国へ行ってしまいそうなぐらいの官能性を秘めた味であった。
蓮っ葉な姉さんに流し目で誘惑されているような感じ。
日本で食ったティラミスは、
何というかもっとお上品な味だった。おとなしいというか。
清潔で、安全な味。優等生的で、抑揚の少ない味。
そう、イタリアで食ったティラミスは、不良、であった。
こっちから味わうのではなく、向こうが主張してくるものを味わわされてるみたいな感じ。過激で刺激的な味をしていた。
こちらから制御しきれない危険な味。
日本のティラミスと比べると、そこが違っていた。
オレは不良が好きだから、
やっぱりイタリアの方が断然うまく思えたね。
皿への盛り付け方も、ウェイターが、
トレイに乗った大きなティラミスを適当に切り分けて、
そのまま皿の上へどさっとのせる。
オレは、ああ、こんなもんなのか、ってびっくりしたよ。
でも皿の上でワイルドに形の崩れたティラミスは、
やっぱカッコ良かったね。不良っぽくって。
「食ってみる?」って感じで挑発的で。
思えばイタリア人、ってみんな不良なんだよな。
遊んでばっかだし。派手好みだし。
作るものにもその国民性がよく出てる。
料理でも、車でも、あんまり真面目っぽくないよね。
何だかみんな色っぽい。色気がある。
そのティラミスはまさにそんな味をしてたんだ。
とろけるように甘くって、それと同時に、苦みもあって、
舌を刺すようなアルコールがじっとりと染み込んでて。
いいな、って思った。人生楽しんでる感じで。
そういうのって憧れる。かっこいい。
素敵に人生を楽しんでる人って光ってる。
オレもそういうかっこいい不良になれたらな、って思うんだ。