ポスター。 壁にはる、あれである。
パキスタン、ヤスィーンの村。
絵葉書を書いた私は、泊めてもらっている家のムハンマドに郵便局に連れていってもらった。
ポツポツとしか家のない村である。
郵便局などあるのだろうかと、付いてゆくと、一件の民家に連れられていった。
ムハンマドが家のおじいさんに声をかけると、大きな錠のかかった物置を開けてくれた。
これが郵便局だという。
たまにしか客がこないから、いつもは閉めているらしい。
私は切手を買って、絵葉書にはった。
ヨボヨボのおじいさんに絵葉書を渡す。
届くのだろうかと疑問に思う。
おじいさんが、お茶を飲んでいけと言う。
私はごちそうになろうとしたが、ムハンマドが何故うちで飲まないのかと言うので、その場はことわった。
ことわると、おじいさんが泣きそうな顔になったので、ムハンマドには内緒で後から行くことにした。
後から行くと、おじいさんの息子が迎えてくれた。
彼が主人らしい。歳は40くらい。
チャイにパンケーキ、揚げたニジマスまでごちそうになった。
主人は、私に写真やポスターを見せてくれた。
写真は、主人のものや、シャンドール峠で行われるポロの試合を見に来た欧米人を撮ったものだった。
外国人はめずらしいらしい。
だから私をお茶にさそったのだろう。
部屋にはポスターがはってあった。
タイ、シンガポール、中国、スイスなど色々な国の風景写真である。
主人が聞いてきた。
「これは何ですか」
オーストラリアのオペラハウスのポスターだった。
どうやって説明しようかと考えていると、主人は、「私は船だと思う」
と言う。
たしかに、バックには海がうつっていて、船らしく見える。
私は主人に、これはオペラハウスといって、歌をうたい、踊りをおどるところだと教えた。
オペラなんていっても解からないだろうから。
次に主人は、アメリカのポスターを指さす。
「とても綺麗です。アメリカの家はみなこのようなのですか」
ポスターには、ディズニーランドの白雪姫のお城がうつっている。
なんて説明しようか。
私は、これは家ではなく城だと教えた。
ディズニーランドといっても解からないだろう。
主人は、私の説明に納得していなさそうだったが、お客をもてなすことを第一と考えているのか、私の英語が下手なためか、それ以上尋ねてはこなかった。
私はあらためてポスターを見なおした。
ポスター一枚が、これだけ人の想像力をかきたてるものだとは知らなかった。