上海タワー

前回インド人のファッションについて書いていて、もう一つ物凄いのを思い出した。
見た目は違うんだけど、感覚としては似たようなものだろう。
それは、インドとともに世界を二分する超大国、中国である。
長きにわたる、人民服生活のせいなのか何なのか、中国人のファッションセンスは凄まじい。
時代遅れなのはよく分かるが、それだけでは済まされないものがある。
10年程前の流行をさらに中国式にアレンジして豪快に着こなすのだ。
そのファッションは他のどの国にも似ていない。 まさに中国オリジナルである。

ぼくは、ジャッキー・チェンや、ブルース・リーが大好きで、彼らの中国服姿はとても格好いいと思うのだけど、それと現代の中国とのギャップを嘆くのは、例えば西洋人が今の日本を見て、なぜ今の日本人はサムライスタイルでないのだ、と嘆くのと同じことなのだろうか。
でも誰が何と言おうと今の中国ファッションよりは、カンフー映画に登場する、りりしい中国服姿のほうが何倍も格好いいと思うのだ。

まあ、でも、ファッションもさることながら、もっと凄いものをぼくは上海で目にしてしまった。
それは上海のランドマークにもなっている、東方明珠塔、上海タワーである。
それを最初に見たとき、すぐさまぼくは、手塚治虫のマンガを思い出した。
マンガに出てくる近未来都市の建物そのものだ、と思った。
丸いおだんごにマッチ棒を突きさしたようなあの塔は、世界中数ある塔の中でも恐らく最も忠実に、頭の中の未来都市というイメージを具現化させたものだろう。
ぼくはしばらく放心して上海タワーを眺めていた。

何がおかしいのかよく分らないけれども、あの塔には確実に違和感を感じる。
あんなふうに、さもこれが当たり前であるかのように、でん、と建っていられると
ぼくは違和感と同時に恐怖すら感じてしまうのだ。
なるほど、中国ファッションを身にまとう人達が上海タワーをつくるのだ、と妙に納得はできるのだが。

何だか得体の知れないパワーや、エネルギーが中国には渦巻いている。
それは自分達のすることや考え方に、何ら疑問を抱かない絶対性から来るものなのだろうか、そのパワーは圧倒的で、中途半端な心持ちではあっという間に飲み込まれてしまうほどの力強さがある。
それは自分自身を信じることの強さなのかも知れないし、それこそが人間が生きていくうえでの生命力、と言えるものなのかも知れない。

中国人のファッションセンスや上海タワーは、ぼくにそんなことを考えさせた。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

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