ファッション

ぼくがまだ旅を始めたてのころ、タイで出会ったインド帰りの日本人が言っていたことをよく覚えている。
それは今思い出してもなるほどなあ、と思うのだが、彼はインド人のファッションについてポロッとこう言った。

「インド人っていうのはルンギ着てるとあんなにも格好いいのに、何でGパンはくとああもダサくなるのかなあ。」

ルンギというのは、一枚の布を腰に巻き付けてはく、ズボン代わりのようなものでスカート状になっている。 もともとはインドの伝統的なものなのだが、現在では田舎の人や、下層階級の人達の履くものとなっており、金持ちや若者達にはあまりはかれない。

だけど、上半身裸でルンギを着けて力仕事をしている人達なんか見ると、これが本当に格好いいのだ。
引き締まった褐色の肌が汗で光り、ルンギをからげながら働くその姿は、思わず見とれてしまうぐらいだ。
なんだかりりしさのようなものを感じる。

反対にお金持ちや、若者は何を着ているかというと、Gパンを履いている。
たいていムチッとしたやつだ。
シャツの裾はきっちりと中にしまい込み、胸元のボタンなんかちょっと外してワイルドに胸毛なんかもはみださせている。
そうしてヒゲをたくわえて、一昔前のサングラスをかけている。
これが本っ当にダサイ。
もう見てたら不快になるぐらいダサイ。
しかも当の本人達は、そのスタイルを本気で格好いいと思ってやっている。
ふざけているのではなく、本当に心底それがいいと思っているのだ。

そんなだから見てると何だか腹が立ってくる。
もう、そんな格好した若者が自信満々にぼくに話しかけてきたりした日には、疲れがどっと出てしまう。
ただでさえ厚いインドなのに、暑苦しさが2倍、3倍にも増すような気がしてくる。
何であんなにダサイんだろう。 それは、こういうことなのか。

例えば日本人は洋服よりも、和服のほうが似合うに決まってるだとか、西洋人がスーツが似合うのは当たり前だとか、そういったレベルの話なのだろうか。
どうも違う気がする。
広場のまん中にラジカセをおいて、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を流しながら得意げに踊るインド人と、輪になって喜んでそれを見守るインド人。
そんな人達とは決して一緒ではないと思うんだけど、そういえば、昔、日本にもそういう光景があったような気もするしなあ。
ただの時代遅れということなのだろうか。

一体全体どうしてルンギ着てるインド人は格好よくって、Gパン履いてるインド人はダサイんだろう。今だにぼくにはよく分からない。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

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