「おい、智、大丈夫かよ?」
心路が、倒れている智を抱きかかえながらそう言った。智は、心路の腕の中で、ああ、シンジ……、と、ゆっくりとまどろみの世界から立ち返りながら微笑みを浮かべた。心路は、智のその様子を見て少しホッとしたように溜め息をついた。
「全く一希の奴、やり過ぎなんだよ。智の後、あいつ自身も自分でバケボンやって、もう、今、訳分かんなくなってんだよ。付き合ってられねぇぜ、本当に。それより智、大丈夫か? 意識あるか?」
心路のその問いかけに、智は、朦朧とした表情で答えた。
「ああ、何とか…ね。大丈夫だと思うよ、多分……」
「そうか。良かった。いくらバケボンって言ったって、あんなに一気にやることないのにさ、一希の奴、智に無茶させやがって……。まあとりあえず、智、これで顔拭きなよ」
心路は、そう言って持ってきたトイレットペーパーのロールを適当に伸ばして智に与えた。智は、礼を言いながらそれを切り取って、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭った。するとその時、部屋の中から一希の怒号が聞こえてきた。心路は、驚いて智と顔を見合わせると、ごめん、ちょっと中見てくるわ、と言って急いで部屋の中へと戻っていった。
心路の後を追って、倒れ込むように危うい足取りで智が部屋の中へと入っていくと、中はしんと静まり返っていた。異変を感じて周囲を目を凝らして良く見てみると、皆、一定の方向をじっと無言で眺めていることに気が付く。更に皆の眺めている視線の先を追ってみると、そこでは一希が、仁の目の前で仁王立ちになって無言で仁を見下ろしていた。皆、息を呑んでその様子を見守っている。
「おい、智、あれ……。何してんのかな……、あいつ……」
呆然とした様子で、心路が智にそう言った。
「さあ……」
智は、全く事情が飲み込めず、ゆっくりと首を左右に振った。
「ねぇ、仁さんさぁ。あんた、ホフマン五枚摂って平気だったって、皆言ってっけど、それ、本当?」
一希が、唇の端を歪めて微笑みながらそう言った。しかし、その鋭い視線は決して微笑んではいなかった。
「ああ……」
仁は静かにそう答えた。
「じゃあさ」
そう言いながら立ったまま膝に手を突いて、一希は仁の鼻先に顔を突き付けた。
「あんたの体に彫ってあるタトゥー、見せてよ。皆、気になってんだぜ」
一希がそう言うと、周りからどよめきが起った。
「あいつ、仁さんに何言ってやがんだよ、ちょっと俺、止めてくる!」