おかしな奴

「サトシ、サトシ」

ウトウトしかけている智に、心路が、巻き上がったジョイントを差し出しながら声をかけた。我に返って智はそれを受け取った。

「ああ、ごめんごめん。あんまり気持ち良かったんでつい……」

心路は、軽く智に微笑みかけた。

「しかし、あれだね。デリーではあんなに憎らしく思っていた太陽が、ここではこんなに清々しいものに変わってしまうなんて。同じインドとは思えないよね。本当に」

そう言いながら智はジョイントに火をつけた。煙の作用が全身に広がって智の視界を歪ませる。するとその歪んだ景色の奥から、金髪をくりくりにカールさせた背の高い欧米人が、智の方へ近寄って、強いイギリス訛りの英語で智に向かってまくしたてた。

「この辺でトリップを見なかったか? 昨日ここで二つ落したんだけど……。君達見なかったか?」

智は、その問いの内容に少し戸惑いながらも、いいや、知らないよ、と首を振った。彼はすかさず心路を見返したが、心路も同じように首を振ると、途端に落胆したような表情で、智達の周りの芝生を這いつくばって探し始めた。しばらくそうしていたが、とても見つからないと悟ると、彼は、ようやく立ち上がって残念そうに首を振り、名残惜しそうに去っていった。彼の去った後、智と心路の二人はお互い顔を見合わせながら笑い合った。

「ハハハ、おかしいよね、あいつ。アシッドなんてこんな所で落して見つかる訳ないじゃん。あんな小さなもの。しかも、昨日だなんて。ハハハハハ」

智がそう言うと、心路も笑いながら言った。

「クックック。かなりイッちゃってるよな、あいつ。きっとさっきも何かキマッてたんだろうよ。それで昨日ここでアシッド落したことを思い出して、それが気になって気になってしょうがなかったんだろ。ハハ」

二人がそうやって笑っている所へ、突然一希が顔を出した。

「ヤァ、何だよ二人とも。楽しそうじゃない」

心路は、笑いながら一希の方を振り返った。

「ああ、一希。来たのかよ。まあ、座りなよ」

一希は、椅子を引いて心路の横に腰を下ろした。

「何、どうしたの?」
「いや、ちょっとおかしな奴がいてさ」

心路は、一希にジョイントを渡しながらそう言った。一希は、それを受け取ると一服大きく吸い込んで、一息に煙を吐き出しながら心路に尋ねた。

「おかしな奴って?」

笑いながら心路はそれに答える。

「ハハ、変な外人がさ、昨日ここでカミを落したんだけど見なかったか、とか言って俺達に聞いてくんの、クッククク」
「へえ、それで?」
「それでって? ある訳ないじゃん、そんなの。こんな芝生の上だぜ?」

一希は、心路の話にあまり興味なさそうに頷くと、灰を芝生に落しながら智の頬を軽く叩いた。

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