皆がカレーを食べ終わった頃、一斉にボンが始まった。あちこちでジョイントが巻かれ、岳志のクリスタルのチラムと智のイタリアンチラムは、人々の間をフル稼働で駆け巡った。次から次へと回ってくるチラムやジョイントを吸い続け、智の意識は、次第に曖昧になっていく……。
智の斜め前にある長椅子に座った思慮深げな表情をしたインド人男性が、眉間に皺を寄せながらジョイントを巻いている。その手付きはとても鮮やかなもので、ひょっとしたら智が今まで見てきた中で一番美しいものかもしれなかった。理見や建、それに岳志以上に彼の手付きは美しい。キングサイズのペーパーを二枚張り合わせ、あらかじめ糊をつけられた部分を丁寧に切り取ると、チャラスを混ぜた煙草の葉をちょうどペーパー一枚分の厚さで巻いていく。そして巻き終わった後の紙の余白に火をつけて燃やしてしまう。大きな炎がジョイントを包み込むのだが、不思議とジョイント本体は少しも焦げてはいない。智は、霞む目でぼんやりとその光景を眺めていた。彼がジョイントに火をつけたとき、まるでその炎が彼の指先から吹き出しているようで、智は、放心しながらそれを眺め続けた。頭の中では、取り留めもないイメージが徐々に形作られていく ―――
――― 誰もいない昼間の公園。積み木で遊ぶのに飽きた俺は、一人、いつもの公園に駆けてきた。婆ちゃんは、慌てて後ろから追いかけてくる。サッちゃん、サッちゃん、と俺を呼びながら……。あれ? 誰か倒れているぞ? 驚いたように男はこちらを眺めている……。追いついてきた婆ちゃんに抱きかかえられながら、俺はその男を眺め続けた。よく見ると、そいつは、きょとんとした表情で俺を見ているそいつは……、ああ、それは、俺だ……、マニカラン・コーヒーショップでチャラスを吸っていた、俺自身だ…… ―――
いきなり辺りの喧噪が大音量で耳に飛び込んできた。智は驚いて周りを見回した。さっきジョイントを巻いていた智の斜め前にいたあの男は、巻き上がったそのジョイントに火をつけている所だった。状況から察する所、智が、心象の風景の中に意識を奪われていたのは、ほんの一瞬の間だったようだ。
――― あれは、まさか……、あのときの……。婆ちゃんがチョコレートケーキを買ってくれた、あのときの……。だとしたら、ずっと思い出せなかった、子供の頃俺が見ていた不思議なものというのは、未来の俺自身の姿……。そんな…… ―――
何故だか分からないが、智は涙を流していた。
――― 何故だろう? どうして、俺は泣いているんだろう……? ああ、婆ちゃん……。優しかった、婆ちゃん……。子供の時の俺は、何にも知らなかった。世界がこんな風になっていて、こんな人達がいて、そして、こんなにも温かいなんて……。ああ、婆ちゃん、ありがとう。俺は、あなたのおかげでこんなに色んなものを見ることができました。色んなことを、知ることができた。あなたがここまで育ててくれたおかげで…… ―――
智は、人知れず頬を伝う涙を拭った。