どんなに頑張っても

「その時のゴアは、かかってる曲もトランスからロックからレゲェから、何でもあったし、そこにいる奴らのファッションだって本当に多種多様だった。だからDJや会場によって雰囲気が全然変わるんだ。踊ってる奴らも色んな国の奴がいてさ。まあ、欧米人が殆どなんだけど、日本人は数えるぐらいしかいなかったかな。皆好き勝手やってて、今みたいにあんまりベタベタしてなかったんだよ。皆同じものを聴いて、同じものを目指して、みたいな取り決めがなくって、音楽でも何でも全く別のものが好きで考え方なんかも全然違うような奴らが自然な感じで一体化していくような、そんな自由な雰囲気だったんだ。だから人間見てるだけで面白かったんだよ。モヒカンのパンクスがドレッドのラスタマンとチラム回しながら話し込んでたり、もうイッちゃってる宇宙人みたいな風貌のレイヴァーがサドゥーみたいなヒッピーとひたすら踊り狂ってたり。もう、無茶苦茶だったよ。本当に」   そう言われてみると智の知っているゴアは、画一的で、どこか秩序立っていたような気がしないでもなかった。もっと色々なジャンルのパーティがあってもいいのではないかとは、智もゴアにいたときから思っていたことだ。

「そうなんですか……。話を聞いてると、何だかその方が面白そうですね」
「だろ? そう、本当に面白かったんだ。この世界にこんな土地が本当に存在するのだろうか、なんて、自分がそこにいるのにそのことが信じられないぐらい楽しかった。本当に夢みたいだったんだ」

智は、うっとりとその状況を思い浮かべた。そしてそんな体験をしている岳志をとても羨ましく思った。

「まあ、ゴアの話はいいんだけどさ、とにかく俺は、機会さえあればどんなドラッグでも貪欲にやりまくったんだよ。俺は何摂っても大丈夫なんだ、って調子に乗ってたんだな。全く馬鹿だったよ。それでゴアの後、マナリーに来たとき、チャラス売ってたアナンと偶然知り合ったんだ。たまたま知り合いのツーリストから紹介されてさ。それでちょくちょくアナンからチャラスやキノコ買ったりしてるうちに、アナンにマニカランを紹介されて、アナンの経営してるこの店へ連れて来られたんだ。それからしばらく、俺はこの町で色んなドラッグをやりまくっていたんだけど、それまでどんなに頑張っても、どうしても手に入らなかったものがあったのさ」

岳志は、そこまで話すと眉間に皺を寄せながらジョイントを深々と吸い込んだ。智は、岳志のその様子を眺めながら催促するようにこう言った。

「一体それは、何だったんですか?」 

智は緊張して岳志の次の言葉を待った。

「ヘロインだよ」

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