「四五年前かな? まだゴアが今みたいにきちんとしてなくって、もっとぐっちゃぐちゃだった時。俺、すっごくトランスにハマッててさ。ゴアのシーズンが終わると、やっぱりみんなみたいにレイヴを追いかけてマナリーまでやって来たんだ。その時アナンと初めて知り会ったんだけど……」
「えっ、岳志さん、レイヴァーだったんですか?」
智は、今の岳志の落ち着いた様子からは岳志がパーティーで踊り狂ってる所など想像もつかなかったので、驚いてそう聞き返した。
「ああ、もう、ブリブリだったんだぜ」
そう言うと岳志は、席を立ってカウンターの裏辺りから古い写真ファイルを一冊引っ張りだしてきた。そしてパラパラとページをめくると、ああ、あった、あった、と言って智に一枚の写真を示した。示されたその写真を見て、智は思わず我が目を疑った。
「ええっ、これ、岳志さんなんですか?」
その写真には、蛍光色のベストにこれまた蛍光色のネクタイを締めて陶酔しながら踊り狂う岳志の様子がしっかりと写されていた。
「ああ。凄いよな。オレ」
かなり恥ずかしそうに岳志はそう言った。智は、吹き出しそうになるのをこらえながらその写真を眺め続けた。岳志は、もういいだろ、という風に写真を閉じると再び話し始めた。
「まあ、当時はそんなだったからドラッグに対しても見境なくって、もう何でもかんでもやってたんだ。手に入るものを片っ端から試していくっていう感じで。でも、ゴアで手に入るものっていったら、やっぱりアシッドとかエクスタシーばっかじゃん? だから毎日朝から晩までその二つばかり喰ってたんだよ。いい加減、喰い過ぎてアシッドが効かなくなってきたらエクスタシー喰って、とかね。ひたすらそれの繰り返しだった。もう、本当、無茶苦茶だったよ。当時のゴアは今みたいにちゃんとしてなかったからさ。本当におかしな奴ばっかりだったから、自分がそんな風になってたって良く分かんないんだ。普通の奴がいないから。それが普通なんだ、って思っちゃう。分かるかなあ? この感じ。俺達みたいにブッ飛んだ奴らの世界が、まるで常識としてまかり通っていたんだよ。本当、狂ってた。あんな経験はもう二度と無いんだろうけど……」
「今よりもっと凄かったんですか?」
智は、自分が見たゴアでさえ、十分色んな奴がいて何でもありだったと思っていたので、少し意外に思って岳志にそう尋ねた。
「今のゴアはトランス一色で、そこにいる人間もイスラエリーと日本人が殆どだろ?」
「ええ、まあ……」