ガンジャ入りのケーキ

「何だか不思議な所ですね。マナリーやマニカランという町は」

独り言を言うように智はそう言った。ちらっと智の方を見て、何も言わずに岳志は微笑んだ。すると突然何かを思い出したように岳志がポンッと手を打った。

「そうだ! そう言えば俺、アナンにスペースケーキ作ってくれるように頼んだんだよ。安いチャラス、ワントラ分買ってさ。明日焼いてくれるって言ってたから食べに行こう
な!」
「スペースケーキって、ガンジャ入りのケーキのことですか?」
「そうそう。食べたことある?」
「いえ。ないです。バラナシでバングラッシーなら飲んだことがありますけど……」
「それと似たようなもんだよ。だけど明日はチャラスを使うから、またちょっと違ったトビ方になるだろうけど」

興奮した様子で岳志はそう言った。

「まあ、楽しみにしててよ」
「はあ……」

智は、少し不安な様子で頷いた。マニカランに来て岳志と一緒に行動するようになってからと言うもの、シラフでいる時間が殆どなくなっているような気がする。いつでもどこでも時間さえあれば岳志はジョイントを巻き始めるし、大抵、智は、岳志と一緒にいるので彼と同じだけやっていることになる。今日はマッシュルームまで食べてしまった。明日はスペースケーキだという。そんなに色んなものを毎日やって、果たして自分は大丈夫だろうか、おかしくなってしまわないだろうかと不安に思う。しかしそんな気持ちとは裏腹に、何かの作用で酔っぱらっているとこの町はとても居心地がいいのだ。今日の昼間、マッシュルームを探して山の中を歩き回った時のように、自然全体が自分に語りかけてくるのが感じられる。体中に染み込んで行くように、緑や空の美しさが実感として感じられるのだ。体中の感覚が解放されていくような気持ち良さが得られ、まるでデリーにいた時のような鬱屈した感情が嘘のように思える。そういう意味において、この土地は本当に「天上の地」だった。だから、その状態をもっと味わっていたいという気持ちの方が最終的には勝ってしまい、ついつい何らかのドラッグを摂取することになってしまう。智は、一日の殆どの時間がキマッている状態だったので、普段の自分の状態がシラフなのかそうでないのか、もはや区別が付かなくなっていた。なので、もうどうでもいいや、と半ばヤケになって、それは楽しみですね!、と、岳志に向かって大きな声でそう言った。心のどこかで感じている不安など、もう、どうでも良くなっていたのだ。

智のその言葉を聞くと、岳志は嬉しそうににっこりと微笑んだ。智は、岳志のその微笑み方を見たとき、ああ、この人は本当にガンジャが好きなんだなあ、と確信せずにはいられなかった。そして、自分と岳志との違いを痛感した。

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