「そうだ、サトシサン! ここから少し南に下った所にマニカランという小さな町があるんですけど、そこへ行けばまだ手に入るかも知れません! その辺りはガンジャを栽培してる人達が住んでる地域なので、その人達に会えればきっと手に入ると思いますよ。最近ここに来るようになった日本人が近いうちにマニカランへ行くって言ってましたので、サトシサンも一緒についていったらどうです? タケシサンという人なんですが、サトシサン、知りませんか?」
智は、いいや、という風に首を横に振った。
「あっ! 噂をすればほら、あれがタケシサンですよ」
そう言ってアリが指を差したその先では、長い髪を後ろで束ねた日本人が、空いている席を探すように店の中をきょろきょろと見回していた。するとすかさずアリが、彼に向かって声をかけた。
「タケシサーン、コンニチワー」
岳志は、アリに気が付くと軽く手をあげて、こちらに向かって歩いてきた。
「よう、アリ。元気?」
そう言って岳志は、アリの横の席に腰を下ろした。
「ハーイ、タケシサン。ブリブリデスヨ。ブリブリネ」
アリは、音が鳴るぐらい強く岳志の手を握った。握手をしながらアリと挨拶を交わしていた岳志は、おもむろに智の方に目をやった。岳志と目が合うと智は、少し緊張しながら微笑んで軽く会釈をした。そして岳志のことを、綺麗な目をした人だなと思った。
「どうしたの? その傷」
智の顔を覗き込みながら岳志は、まずそう言った。智は、顔の傷のことなどすっかり忘れてしまっていたので、改めて自分が怪我をしていたことを思い出した。
「ああ、これですか? これは、その……、ちょっと転んでしまって……」
自分でもかなり嘘くさい怪我の理由だなと思いつつ、智は、傷口を確かめるように顔を撫でた。目の下の辺りが腫れていて眉尻が少し切れてはいるものの、もう大分治りつつあって、そんなにひどい状態ではない。痛みも殆ど消えてしまっているのだが、それでも他人から見たらひどい怪我のように見えるのだろう。
「ふうん。大丈夫? 痛くない?」
飄々とした様子で岳志はそう言った。岳志の落ち着いたその様子と澄んだ眼差しは、それだけで岳志の送ってきたそれまでの人生を、十分に物語っていた。きっと色んな物を見、体験してきたのだろう。その瞳の奥には、それらを通して得られた様々な智恵や教訓などが潜んでいるようだった。智は、何となく岳志の涼し気なその雰囲気に惹かれ始めていた。
「ええ、大丈夫です。もう大分治っていますかから……」
智がそう言うと、岳志は薄らと微笑みを浮かべた。
アリが、横から岳志にジョイントを渡す。岳志は、器用に親指の付け根と手の平の間にジョイントを挟むと、眉間に皺を寄せて猛烈な勢いでそれを吸い込んだ。白い煙が、岳志の手と唇の間からもうもうと吐き出され、一瞬の内にその場にいた三人は煙によって包まれた。