「いや、そうじゃないんだ。もともと直規君が、ゴアにいたときから目をつけてた子だったんだよ、彼女は。それが偶然、プシュカルにいてさ。智もちらっと見たよな? 金髪で、所々緑に染めてるちょっとイッちゃってる感じの子。それで智も知っている通り、急にジャイプルへ一緒に行くことになったんだけど、どういうわけか、その子が俺になびいちゃってさ。これもまた昔からそうなんだけど、何故か直規君の狙ってる女は、俺に惚れたりすることが多いんだよ。何でか分かんないけど。俺にはちっともそんな気なんて無いんだぜ? だって、そんなことしたら後でややこしいことになるのは目に見えてるだろ? また八つ当たりされたりするに決まってるんだから。だから、わざわざそんなことをしようとは思わないんだけど、どういう訳か、皆決まって俺の方に来るんだよな。女って本当に分からないよな。追いかけたら逃げる癖に、興味を示さなかったら途端にちょっかいかけてきやがるんだから。迷惑だからやめて欲しいんだけどさ。でも、やっぱり言い寄って来られたら、いい気にもなるだろ? それでこっちがその気になったりすると、手の平返したように冷たい態度を取り始めるんだ。結局、皆そうだったよ。その金髪の女もそうでさ。俺がちょっとそういう態度を取り始めると、途端に冷めちまったらしくって、すぐに消えちまったよ。どっか行っちまった。俺達は、行きたくもないジャイプルなんてわざわざついて行ったっていうのにさ。まあ、直規君も俺のそんな振られっぷりを見てるからこそ、爆発しないのかも知れないから、それはそれでいいのかも知れないけど。でも、いくら俺が鈍いって言ったって、そんな風にされたらやっぱり傷つくし、いい気はしないんだけどな……」
智は、心路が寂しそうにそう言うのを聞いて、思わず笑ってしまった。心路は、ひでぇな、サトシ、と、ボソッと呟いた。
「いや、ごめんごめん。あんまり心路が寂しそうな顔してるからさ。つい……」
智は慌ててそう言った。
「とにかく、そういうことなんだ。直規君は、今かなりヤバイ状態なんだよ。だから、もう俺達、これ以上は……」
「誰が、ヤバイ状態だって?」
急に扉が開くと、そこには直規が立っていた。心路と智の二人は、その姿に目が釘付けになった。心路を横目で見ながら直規はベッドに腰を下ろした。そして煙草に火をつけると、ゆっくりとした調子で話し始めた。
「俺、タイに行くわ。明日にでもチケット取りに行く」
心路と智の二人は顔を見合わせた。
「えっ、直規くん、一体何言って……」
呆気にとられた表情で心路がそう言いかけるのを、直規が遮った。