「旅に出ようと思って、金を貯め始める前ぐらいかな。レイヴ仲間にゴア行ってた奴らが何人かいて、そいつらの話聞いてたら、もう、行くしか無いじゃん、ってことになってさ。ようやく俺達にも目標らしい目標ができたから、馬鹿みたいにドラッグやり続ける生活も、ちょっとはマシなもんになったんだ。毎日真面目に仕事行って、金貯めて。半年ぐらいそんな生活が続いたかな。だから、こっち来たときは二人とも結構いい感じだったんだよ。体も調子良かったし、精神的にも落ち着いてたし。ゴアも楽しかったしな。でも、ゴアを出た辺りから、何となく、また精神的に落ち込み始めて……。やっぱり目標としていたゴアまでは、二人ともモチベーションを保つことができてたんだけど、それを達成しちゃった後は何となく何していいのか分かんなくなっちゃって、パーティを追いかけること自体が目標になったんだ。お祭りみたいなもんでさ、要するに、祭りのあとの状態なんだよ。俺達。あの、熱狂してた時間を消したくなくって、もう、終わってしまったっていうのは分かっているんだけど、それを認めたくないっていうか……。だから俺達は、これからシーズン迎えるマナリー目指してひたすら北上して来たんだけど、ちょっと限界かもな。やっぱ、プシュカルでブラウンやりだしてからだよ。直規君がまたおかしくなり始めたのは。禁断症状が出始めて、昔のことを思い出すんだろうな。ピリピリピリピリしてるんだ、ずっと。そんで、ヘロインなんか手に入っちゃっただろ? だから、更にその状態に拍車をかけてるんだよ」
「心路は大丈夫なの?」
「俺もやっぱり辛いけど、直規君とはちょっと違うな。何て言うか、ほら、さっきも言ったけど、直規君は俺と違って頭がいいんだよ。だから、色んなこと考え過ぎちゃうんだ。本当にどうでもいいようなことを突き詰めて考え過ぎる癖があるんだよ。それにあいつ、ああ見えても、凄く繊細なんだ。だからもう、悪循環でさ。色んなことに傷つけられて、身を守るために考えて。それで考え過ぎて、見なくていい物まで見えてしまうようになって、また傷ついて……。しょうがないよ。奴がドラッグに溺れるのは。気持ちは分かるような気もするよ。その点俺は、そこんとこ鈍いから結構何があっても平気な方なんだ。だからドラッグに対しても、直規君のようなのめり込み方はしない、というか、できないんだ。俺は、純粋に感覚だけを楽しんでるような所があるけど、直規君は、もうそれこそ、身も心もどっぷりと捧げてしまうタイプなんだ。あのままいったら、あいつ、確実に死んじゃうよ。更に、最近例の女の一件があってからまたひどくなってきてるしさ」
「そういえば、さっきはちゃんと聞けなかったけど、結局その女の子とはどうなったの? 二人で取り合いになって、心路が勝ち取ったっていうこと?」