「ああ、本当の話だよ。しかも高校は中退してるから、自力で大検とって東京の有名な私立大に入ったんだ。直規くん、頭いいんだぜ。高校も俺なんかとは違って、結構な進学校へ行ってたしさ。でも、昔から札付きのワルがそんな高校や大学、合うわけないじゃない? 一年が終わるか終わらないかの内に、学校内で喧嘩して、警察沙汰になって退学処分さ。大学だって同じことだ。入って何ヶ月も経たない内に、すぐ辞めた。奨学金まで貰ってたのにな。同級生の奴らに我慢ができなかったらしい。聞いた話によると、ムカついてた奴を授業中に、後ろから思いっきり椅子でブン殴ったそうだ。頭から血がピューピュー吹き出して、辺り一面血の海で、そりゃあもう授業どころじゃなかったらしいぜ。何でも、金持ちのボンボンがポルシェか何か乗り回してて、テニスサークルか何かで女といつもイチャイチャしてたのが気に入らなかったみたいなんだ。そんなの、完全な逆恨みだよな。ひがみ以外の何ものでもない。やられた奴にしちゃあ、災難だぜ。それで警察にとっ掴まって、何日も拘留されて、その後、やっと出てきたと思ったら、それからがまた、ひどかったね。せっかく更正して真面目にやろうとして大学まで入った矢先のことだったから、反動も生半可なものじゃなかったよ。昔から付き合いのあったヤクザなんかとつるみ始めて、シャブとか色んなもん捌きだして……。もう、そのままヤクザになるしかないんじゃないか、って思ってたちょうどその時に、レイヴと出会ったんだよ。そしたらまた、物凄い勢いでのめり込んじゃってさ。その延長でこうやってはるばるインドまで来てるって訳さ。まあ、俺もそうなんだけど、ちょっと前までの直規くんだったら、インドに来るなんてことは考えられなかったんだよ。本当に。でもまあ、ヤクザなんかになるよりは、レイヴにはまってドラッグやってる方が、まだマシだとは思うんだけどな……」
心路は、そう言うと煙草の煙を吐きながら大きく溜め息をついた。
「まあ、俺なんかもそうなんだけど、直規君は、とにかく昔からやることなすこと全部裏目に出るタイプでさ。何をやっても上手くいかないんだ。全く、ろくな人生じゃないよ。金も無いし、仕事も無いし……。智、夏の炎天下に真っ昼間から道路に穴掘ったことあ
る?」
ゆっくりと智は首を振った。
「もう、マジで地獄だぜ、あれは。アスファルトの照り返しがあるから、確実に体感温度は五十度近くあるな。そんな所で、意識が朦朧となりながら一日中穴を掘り続けて大して良くもない日当貰ってさ。くたくたで帰って、次の日また朝早く起きて。もう、人生なんてやめてしまいたくもなるよ。稼いだ金は殆どシャブで使って、ひたすら毎日打ってたよ。直規君と二人でな。直規君は本当に凄かったよ、あん時は。もう、死ぬ気でいたからな、毎日。シャブ打って、カミ喰って、レイヴ行って朝まで踊って、帰って来たら、また打って。切れてきたら、馬鹿みたいに酒飲みまくって。それでギリギリまで金使ったらまた穴掘って。それの繰り返し。辛かったよなあ、本当に。直規君の姿を見てるのも辛かったし、自分が薬切れても辛かったし。地獄のような毎日だったよ、本当に……」
「いつまで、そんな日々が続いたの?」