「ううぁ、ううぅぁああ、うあっ、うあっ、うあっ……」
喉の奥から絞り出されるような呻き声が、智の口から止めどなく発せられる。智はそのまま真後ろに倒れ込んだ。天井を見ている視界が、どんどん狭まっていく。まるでそれは魚眼レンズを覗いているような光景だった。視界はそのまま、どんどんどんどん小さくなっていき、最終的には小さな光の点になってしまった。口は大きく開け放たれたまま、目は開いているのか閉じているのか分からない。それどころか、今、自分がどういう状態なのかも分からない。立っているのか、座っているのか。それとも、寝転がっているのか。まるっきり、感覚というものが消えてしまっていた。まるで空中を浮遊しているかのようだった。皮膚が、大気に溶け込んで、周りのあらゆるものと同化して……。
智は、真っ暗な空間に浮いていた。果てしない空間にただ一人、ぽっかりと浮かんでいた。
「うおっ、サトシ凄えな。よし、俺も一発いっちゃおっかな」
そう言って直規が粉を吸い込もうとしたその時、心路がそれを制して言った。
「ちょっと待ってよ、直規くん。ほら、サトシ大丈夫? 動かないよ」
直規は、その行為を邪魔されてイライラしながら心路に言い返した。
「何だよ、大丈夫だよ。心配しなくても、これぐらいの量じゃどうにもなんないよ。俺らいつも、もっとやってるだろ」
「でも、俺達はずっとやってるからさ、それなりに耐性もついてるだろうけど……」
「大丈夫だって。俺達もこれ最初にやったとき、あんなだったじゃねえか。だから平気だって」
心路は、直規の強い口調に仕方なく引き下がったが、心配そうに智の方に目を向けた。智はまだ、大の字になってぽっかりと口を開けたままだ。目は空ろだが、どこか微笑んでいるようにも見える。直規は、ラインを吸い込むと鏡を心路に手渡した。心路は、慣れた手付きで一本のラインを左右の鼻孔を使って半分ずつ吸い込んだ。そしてその後、粉をひと粒たりともこぼさないように、しきりに鼻を啜って吸い込んだ。数分後には直規と心路の二人も、智と同じようにベッドに横たわっていた。
天井に備え付けられた大きなファンが、ぐるぐると回っている。彼らを取り囲む壁はブルーで、その壁には、誰が描いたのか、抽象的な人の顔や四葉のクローバーをくわえた白い鳥、太陽や月の満ち欠け、星の輝きなどが、壁よりも更に青いペンキで一面に描かれていた。そして、何て書いてあるのかは良く分からないがフランス語のセンテンスが何行か、絵の上に被さるようにして描かれている。壁は、それらの絵によって埋め尽くされていた。その部屋は、まるで、壁をキャンパスにしたひとつの作品のようだった。それらは恐らくフランス人が描いたものなのだろうが、良く見ると一行だけ、『ONE WORD ONE WORD,LOVE』と英語で描かれている箇所があった。
薄暗いその部屋の中で、三人の男達はぐったりと横たわっていた ―――