残虐な性格の持ち主

「い、いったい、それは何してるの? 俺と別れてから今まで、ずっとそうしてたの?」 直規は、リムカの瓶を置いてそれに答えた。

「ああ、こいつら二度と俺達に逆らわないようにな、徹底的に恐怖心を与えてやるんだよ。ここに連れてきて、早速”カミ”喰わせてやった。随分嫌がったけど、ぶん殴ったらあっさり言うこと聞いたよ。そしたら二人ともどうやら、カミ喰うの初めてだったみたいで、効いてきたらガタガタガタガタ震え始めてさ。すっげえ怯えた表情しやがるから服脱がせて縛ってやったんだよ。そしたら最初の内は滅茶苦茶暴れてたけど、ようやく観念したらしく、今じゃあこの通りさ。なかなか使い心地いいぜ、こいつら」

そう言うと直規は、足でヤスを小突いて智の方に顔を向けさせた。今まで気が付かなかったが、ヤスは猿ぐつわを噛まされていた。白目を剥いて涎を流し、声にならない嗚咽を洩らしながら、小刻みに体を震わせている。ゲンも全く同じ状態だった。

それを見て智は吐き気を覚えた。胃の中の物が溢れそうで、慌てて口を押さえた。

「あのさ、直規、それ、大丈夫なの? 死んだりしない?」
「ハハハ、大丈夫だよ。怪我だって別に大したことないし、喰わせたアシッドだって軽いやつを四分の一だけだぜ。ただ、すっげぇバッドな世界へ行ってるとは思うけどな。ハハハハハ」

智は、何となくヤスとゲンがどんな世界を見ているのかが想像できるような気がした。考えたくもない。アシッドでは智も散々辛い目を見てきたため、それがどのぐらいひどい状態なのかは何となく分かるのだ。しかし二人の今の状況は、智のそんな経験よりも遥かに悲惨なものなのだろう。

智は、何となく直規と心路の二人にはついていけないと思った。自分と彼らとの間には、決して分かり合えない壁のあることを認識した。いくら奴らが憎いとはいえ、自分はこんな真似はとてもできない。それは、確かだ。

「でも、そこまでやることもないんじゃないのかなあ……」

智は控えめにそう言った。すると直規は、なおも微笑みを浮かべながら智にこう言い返した。

「智、あのな、こういう奴らは徹底的にやっとかないと後が面倒臭いんだよ。ちょっとでも手加減なんかしたら、つけあがってまた同じようなことしてくるぜ。智との間に何があったかは良く知らないけど、智だってあれだけひどくやられてたんだ。あの時俺らが来なかったら、ヤバかったぜ。下手したら死んでたかもよ。こっちの豚が、あの勢いのまま智のこと殴りつけてたら、本当、どうなってたか分かんないぜ」

直規は、そう言うと心路の足の下のゲンの脇腹を思い切り蹴飛ばした。ゲンは、グゥエッ、という音を発して首を振って悶え、その体の振動で足を載せていた心路が少しよろめいた。心路は、てめえ、静かにしてろよ、とゲンの頭を踏みつけた。あの温厚そうな心路までもがこんなにも残虐な性格の持ち主だったとは想像もつかず、智はかなりショックを受けた。

「まあ、そうだけどさ……。でも、もし、俺の為にそうしてるんだったら、もう、勘弁してあげてくれないかな。確かに、俺もそいつらのことは凄くムカついてたんだけど、そこまでされると俺の方が何だか辛くなってくるよ。だからさ、もう、許してあげてよ」

智は直規と心路に懇願する。

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