ゲスト・ハウスのレセプションの前で、ゲンに出会った。奈々と一緒にいる智は、嫌な所で会ったなと思った。すると案の定ゲンは、二人が一緒にいるのを訝しみながら、よお、奈々、何やってんだよ、と言った。奈々は、別に、と言ってスタスタとゲンの横を通り過ぎた。ゲンは、チッと舌打ちをして、智の顔を睨みつけた。智は、笑ってごまかしながらその横を通り過ぎた。
「あの人達、ちょっと失礼ですよね」
奈々は言った。
「ああ、まあね」
何となく頷きながら智はそれに答える。
「最初に会った時はあんな風じゃなかったのに、みんなでマリファナを吸ったあの時から、いきなり態度が大きくなって。私の顔見る度にあんな調子なんです。もう、いい加減にして欲しいですよ。智さんに対しても、凄くひどい言い方とかしてたじゃないですか。だから私、もうあんまり関わらないようにしてるんです」
智は、奈々が自分に味方してくれるのは素直に嬉しいと思ったが、彼らに対して何も言い返せないでいる自分が、ひどく情けなかった。彼らを奈々達から遠ざけられないでいる自分自身が、とてももどかしかった。
二人は智の部屋に着いた。智は、扉にかかっている南京錠に鍵を差し込む。そして扉を開く前に、もう一度、奈々に手を出さないことを自分自身に言い聞かせた。そして大きく深呼吸をすると、ゆっくりと扉を開いた。
「どうぞ。部屋、汚れてて悪いけど……」
奈々は、部屋に入ると周りを見回した。
「わあ、私達の部屋に比べると、大分小さいですね」
「まあ、ね。あそこはベッドも二つあるし。でも、一人だったらこれで十分だよ」
頷きながら奈々は部屋の中を見回している。
「あっ、そういえば、奈々ちゃん達は、谷部さんに聞いてあの部屋にしたんだよね?」
部屋を見ていた奈々は笑顔で振り返りながら言った。
「そうでっす! 谷部さんに聞いたんでっす! 谷部さんが、まだ空いてるだろうから行ってみな、って言ってたので。来てみたら、実際空いてたんです。ハハハ」
そう言うと奈々は、勢い良く智の隣に腰かけた。そしてしばらく智の方を見つめると、俯いたまま何も話さなくなった。
静かな時間がしばらく続いた。相変わらず窓からは直射日光が強烈に差し込み、そのコントラストが部屋の暗さを強調する。遠くから、街の喧噪がかすかに聞こえる、ゆったりと、落ち着いた午後だった。
「智さん、奈々のこと、嫌いですか?」
唐突に奈々はそう言った。黒縁眼鏡の奥から、濡れた瞳がじっと智を見つめている。
「えっ?」