結局その後は、ヤスの巻いた一本のジョイントを四人で回し終えた所で終了した。ヤスが大口を叩いて作ったそのものは、雑で、巻き方が悪いため途中で何度も火をつけ直さねばならないようなものだった。やはりガンジャそのものの質もそんなにいいものではなく、いくら吸っても智はあまり効き目を感じることができなかったが、ヤスとゲンの二人は、大げさに、ああ、キマッた、ああ、ブッ飛んだ、を繰り返し、ゲンなどは、露骨に奈々を欲望の混じった目で見つめ、どさくさに紛れて時折肩に手を回したり、足に触ったりしていた。その度に奈々は、身を縮め助けを求めるように安代の方へ擦りよった。安代は、やんわりと、ゲンさん、だめだよ、とゲンを戒めるのだが、ゲンは、冗談、冗談、と、例の奇妙な笑顔を見せるだけで一向に止めようとはしなかった。ヤスはヤスでいつのまにか安代の隣に移動しており、ぴったりと彼女に密着して、いかに自分が精神的に追い詰められていて、こういったものに頼らざるを得ないかということを蕩々と説いていた。安代と奈々の二人も何となくガンジャが効いてはいるらしく、たまに辻褄の合わない受け答えなどしていたが、本人達にその自覚は無いようで、あんまり分かんない、だとか、ちっとも効いていない、だとかを繰り返していた。するとゲンが、もっと吸いなよ、とパイプにガンジャを詰めて吸わせようとするのだが、二人は、気味悪がってもうそれ以上やろうとはしなかった。恐らく彼らは、初めから彼女達をガンジャで酔わせてどうにかするつもりだったのだろう。だから入ってきて智を見た時、あんなにも落胆していたのだ。
その様子をしばらくぼんやりと見ていた智は、さすがに馬鹿らしくなって、悪いけど俺、先に帰るよ、と席を立とうとした。すると、もうさすがに我慢できなくなっていたらしい安代と奈々の二人が、私達もそろそろ寝ようと思うんで、とこの下らない宴を強引に終わらせた。ヤスとゲンの二人は、まるで智のせいでそうなったとでも言うように、非難のこもった目付きで智をしばらく見つめていたが、もうこれ以上の進展は望めそうにもないことを悟ってか、渋々それを受け入れた。ゲンは、興奮して顔を真っ赤にしながら舐め回すようにいつまでも奈々を見ていたが、ヤスになだめられると仕方なく部屋を出た。ヤスは、一通り片付けを済ませると智を一瞥し、もっと巻く練習しといた方がいいですよ、と言い置いて去っていった。智は、笑って二人を見送ったものの、内心は、内臓がひっくり返る程燃え盛る怒りでいっぱいだった。
ようやく悪夢のような時間から解放された智は、自分の部屋に戻ると勢い良く扉を閉め
てベッドの上に体を投げ出した。げんなりした思いで目をつぶる。すると先程のことが色々思い出され、智は、それらを振り払うようにして体を丸めた。するとその時、ふいに扉をノックする音が聞こえた。最初は気のせいかと思ったが、しばらくすると確かにまた聞こえてくる。智は、重たい体を無理矢理起こして、はい、とそれに返事をした。扉の向こうから女の声が聞こえてくる。智が扉を開けると、そこには奈々が立っていた。何か言いたげな様子でこちらを見ている。智が、どうしたの、と尋ねると、奈々はようやく口を開いた。
「あの、智さんに悪いことしちゃったなって思いまして……。楽しくなかったですよね? 私達のせいで嫌な思いさせちゃったから、だから、これあげます! 食べて下さい!」
そう言って奈々の差し出したものは、日本製の梅干しだった。カリカリの小さな梅干しが一粒ずつパックされたものだ。智は、しばし呆気にとられていたが、ありがとう、と言ってそれを受け取った。すると奈々は、嬉しそうに微笑んで、おやすみなさい!、と元気良く言うと走って部屋に戻っていった。智は、気を使われた自分が少し情けなく思えたが、素直にありがたくそれを貰っておいた。