智は、半ば呆れ気味にその様子を眺めながら言った。するとその二人は、お互い顔を見合わせて手に手を取り合ってはしゃぎ始めた。
「きゃあ、もう出会えたよ。智さんだ、智さんだ!」
どうやら二人は自分のことを知っているらしく、智はとても不可解な気分になった。
「俺のこと知ってるの?」
安代は、気持ちを落ち着かせてから智の目の前に顔を近づけて言った。
「ええ、幸恵ちゃんから聞いたんです! あと、谷部さんも!」
智は、一瞬驚いたがすぐに全てを理解した。
「えっ、じゃあ、君達、バラナシから来たんだね? 幸恵ちゃんと谷部さんに会ったんだ」 二人は顔を揃えて頷いている。
「そっかあ、それで二人は? 元気そうだった?」
「ええ、もう。あ、でも、幸恵ちゃんはお腹壊してるって言ってましたけど。でも、谷部さんが一緒だったから安心ですよね」
安代が言った。
「一緒って? あの二人、一緒にいるの?」
「詳しくは分からないけど、多分一緒なんじゃないですか? 同じゲストハウスに泊まってるって言ってましたから」
「え、だって、君子さんは?」
「キミコさん? 誰ですか、それ」
智は愕然とした。いくら谷部が手が早いと言ったって、もう幸恵と一緒にいるとは……。それは、部屋をシェアしているということだろうか……。恐らくお互いが出会ってからそんなに時間なんて経ってはいないだろうに、一体どういう手を用いればそんなにすんなりと女の子と同じ部屋に泊まることができるのだろう。それに、君子はどうしたんだ。一緒にいる筈ではなかったのか……?
谷部の神業のようなテクニックに、智は戦慄すら憶えた。
――― ひょっとして、もう…… ―――
智は、二人の肉体関係について考えた。いいや、そんなことはあり得ない、と、何とか否定しようとするのだが、どう考えても、それは起こり得るとしか思えなかった。現時点でならまだしも、これから先一緒にいるであろう数日間、ひょっとしたら何の予定も無い谷部のことだ、幸恵が帰国するまでつきまとい、その機会を窺い続けるということもあるかもしれない。ふいに建の言葉が脳裏をよぎる。
――― 谷部君は智みたいにがっついていないからな。もっとこう、ジワッジワッと時間をかけて追い詰めていくんだよ。大抵の女の子はそれで落ちちゃうんだよな ―――