タンクトップは驚きながらそう言った。
「俺も、三ヶ月ぐらい旅してるんですけどね、インドは一か月弱ですね。東南アジアに長くいて、タイや、ベトナム、カンボジア……、あと、ラオスにも行きましたよ。ラオスなんて本当に何にもない所で、旅するのも大変でしたよ。バスなんていつも満員で、未舗装の所をガンガン走るし。あ、でもね、ガンジャがいいんですよ、ガンジャが。いいガンジャがあって、あん時は一日中飛びまくってたなあ。それがあったから何とか旅できたようなもんだよな、あんな国」
聞いてもいないのに、タンクトップは自分の旅の話を得意気に話し始めた。白Tシャツは、敬意のこもった眼差しでタンクトップを見つめている。
「あっそうだ、ガンジャはやったことあります? ああ、ガンジャってマリファナのことなんですけどね」
智はうんざりした気分になってきた。もうこれ以上、この二人組と関わるのはごめんだった。しかし智は笑顔でそれに答えた。
「ああ、やったことあるよ。インドでならどこででも手に入るしね」
タンクトップは、少し窺うような視線で智を見つめた。
「そうなんだ。じゃあ、今からやりません? 俺、ガンジャ、持ってるんですよ」
「ごめん、今、ちょっと洗濯してるからさ、また今度お願いするよ」
智がそう言うと、タンクトップは、首にかかっている大きな数珠の玉の一つを指先で転がしながらこう言った。
「昼間からやるのは、ヤバイですか」
智は、タンクトップが一瞬何のことを言っているのか良く分からなかったが、どうやら、昼間からガンジャでキマッているのは何か後ろめたいことだ、と彼が思っているらしく、それを理解するのに少し時間がかかった。
「いや、そういう訳じゃないけど、ほら、洗濯物がちょっと溜まってて、これを片付けるのに少し時間がかかりそうだから……」
タンクトップは、智を、ビビってるんですか、とでも言いたげな目で少しの間見つめると、じゃあ、また今度、と言い置いて去っていった。白Tシャツは、パーティ、パーティ、と良く分からないことを呟きながら、タンクトップの後を追った。