幸恵は、そう言うと、自分のほっぺたの辺りの肉を軽くつまんだ。
「痩せなくたっていいよ。日本ではどうか知らないけど、こっちでは女は太ってる方が魅力的なものなんだし。俺もそう思うね。日本の女の子はヒステリックに痩せようとし過ぎだよ。あんなのメディアが商品売るためにみんなの不安を煽って過剰に反応させようとしているだけで、実際の魅力とは何の関係もないものさ。やっぱり女の子はちょっとぽっちゃりしてた方がかわいいよ」
建がそう言うと、幸恵は照れくさそうに下を向いた。
「そうやって言ってもらえると嬉しいんですけど……。でもやっぱり、スラッとした、スタイルのいい女性を見たりすると、憧れちゃいますね。いいなあ…って。まあ、私は諦めてるからいいんですけど」
「確かにそういう人達もいいけどね。でも、みんながみんなそういう訳にもいかないだろうし、色んなタイプの女の子がいた方がいいじゃない。その方が面白いよ」
「結局建さんは、どんなタイプの女の子でも気にしないだけなんじゃないですか?」
横目で建を見ながら、智がからかうようにそう言った。
「馬鹿、お前、違うよ。俺は、それぞれのいい所や悪い所をだなあ、それぞれがはっきりと自覚してさえいればみんなもっときれいになれるのに、ということが言いたいんであって……」
「はいはい、もういいですよ。建さんは全ての女性を愛するということで」
智が建の話を適当にあしらうと、建は両手を広げて肩をすくめた。
「それより、幸恵ちゃんはいつまでデリーにいるつもりなの?」
智が幸恵にそう尋ねた。
「私、明日の朝にバラナシへ向かう予定なんです」
「えっ、そうなんだ。もう出発しちゃうの?」
智は驚いてそう言った。申し訳なさそうな口調で幸恵は続けた。
「はい。今朝デリーに到着してすぐ、バラナシ行きの電車のチケットを買っちゃったんですよ。特にデリーでは何もすることが無いだろうと思っていたんで。でも、智さんや建さんみたいな人に出会えるのなら、もうしばらくいても良かったなと思います」
「まあ、時間もそんなにある訳じゃないし、初めて来た所で一人だし、仕方ないよな」
ぼそっと呟くように建がそう言った。
「一応、一ヶ月ぐらいは時間があるので特に急いでいる訳ではないんですけど、行ってみたい所もたくさんありますし……。とりあえず切符を買ってしまえばすぐに動けるだろうと思ったので……」
「でも、それはいい方法かもしれないよ。ある程度自分に無理をさせないと、俺とか智みたいにふんぎりがつかなくて、ダラダラと同じ場所にいる羽目になってしまう。バラナシへ行くのなら、またそこで俺達みたいな奴らにはたくさん出会えるよ。あっ、そうだ。そういえば今朝、俺達の知り合いがバラナシへ旅立ったんだよ。谷部君っていう人とあと、何だっけ、谷部君と一緒にいた女の子……」