嫌な思い出

智は、あいててて、と頭を押さえながらベッドの上の幸恵を見上げた。床に転がったおかげで、全身砂まみれになっている。見上げた幸恵は、小窓から差し込む強烈な日光を背負っていてとても眩しく、智は直視することができなかった。幸恵から必死で目を背けている智のその様子が、より一層、智を惨めで卑小なものに見せていた。

「大丈夫ですか?」

警戒しながら幸恵は智にそう尋ねた。智は、手の平で日光を遮りながらそれに答えた。

「ああ、大丈夫だよ……。ごめん、幸恵ちゃん、俺、何だか変な気分になって、つい……」「ひどいですよ、智さん。突然あんなことするなんて。私、ショックです」

さっき大声を出したせいか、幸恵の声は少し嗄れている。幸恵は軽く咳払いをした。智は、怯えた小動物のように卑屈な目で再び幸恵を見上げた。

「ごめん、本当に……。もうしないから……」
「本当ですよ。約束ですからね。私、せっかく智さんと出会えて良かったなと思っていたのに、こんなことで幻滅して嫌な思い出にするのは嫌なんです。だから、本当にもうしないで下さい。絶対ですよ」

髪の乱れを直しながら幸恵は智にそう言った。智は、心底恐縮しながら頷いた。恥ずかしさでまともに幸恵の顔が見られない。

「智さん、ほら、もう立って下さいよ。そんなとこに座っていないで」

幸恵は、そう言うと智の手を取って立ち上がらせた。そして智の砂まみれの体に付いた砂を手で払った。

「ああ、ごめん、幸恵ちゃん。もういいよ。自分でできるから」

智は、部屋の外へ出てTシャツやジーンズに付いた砂を丁寧に払った。そうしていると何だか自分が物凄く惨めなものに思われてきて、涙がこぼれ落ちそうになった。

「サトシ、何してんだよ」

唐突に、誰かが智を呼ぶ声がした。建だった。焦った智は慌てて平静を取り繕うと、ああ、建さん、どうしたんですか? と言った。

「どうって、暇だったからいるかな、と思って見に来たんだよ。晩飯喰いに行くだろ?」「ええ、でも……、まだちょっと早いじゃないですか」
「何だよ、いいだろ。何か都合悪いことでもあるのかよ」

そう言いながら建は智の部屋の中を窺い見るように覗き込んだ。

「何? 誰かいるの?」

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