生きて行かねばならない理由

ベッドに体を横たえた。やはり少し寒気を感じるようだ。体の節々が鈍く痛む。

智は、今までの旅のことを思った。そして出会い、別れていった旅人達のことを思う。たくさんの人達がいた。長く一緒にいた人達や、ほんの短い間だった人達。共に色んなことをした。食事をしたり、町を歩いたり。思い出の中の彼らは、何故かみんな笑っていた。智は、楽しかったことばかりを思い出した。でも、やはりそれらは皆終わったことなのだ。もう全てが、終わってしまったこと。決して再び訪れることの無い時間達。分かり切ったことなのだが改めてそう実感すると、今一人でいるこの状況が余計に寂しく感じられる。堪らない気持ちになる。

物事には、どうして終わりが訪れるのだろう? 楽しかったあの時は、何で永遠ではないのだろう? なぜ、別れなければならないのだろう? 

智は、子供っぽいそれらの問いを、半ば怒りを込めて誰にということもなく問いかけた。

終わり、終わりが訪れる……。

そして、死を想った。生命の終わり。終結。どんな命にも、必ず死は訪れる。別れは必ず訪れる。智は、何となくガンガーの河の流れを思い出していた。茶色く濁った濁流が、蕩々と流れ続けるその様を。ただ、流れ続けるその様を。

何故だろう? 何故、河は流れるのだろう? 人は? 何故、人は生まれる? 何故、人は生き続けねばならない? 何の目的があって? 河は何のために流れて、自分は何のために生き続ける? 理由など無いのだろうか。それならば、死の恐怖や別れの辛さを乗り越えてまで生きて行かねばならない理由も見つからない。その先に何も無いのであれば、それらを克服せなばならない理由もない。分からない。俺には、生きるということが分からない。ああ、死か。死ならば、バラナシにはたくさんあった。バラナシは、死のイメージで満ち溢れていた……。

智は、もう一度ガンガーが見たいと思った。流れ続ける濁流を眺めていたいと思った。ただ、河べりに座って、日がな一日ずっと眺め続けていたいと思った。バラナシで死ぬことを夢見る人達。来生へ夢を託して、バラナシで死んでいく人達。ガンガーは、ただ、無表情に、理由など無く、流れ続ける……。

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