建は、火の消えてしまっているジョイントに再び火をつけると一口大きく吸い込んで、それを谷部に手渡した。

「ごめん、谷部君、これ、すっかり忘れてた」

谷部は建からそれを受け取った。

「ああ、いいよ、気にしなくても」

谷部は、建の話についてあまり言及しなかった。ただ、何か考えるように、黙って建の話に耳を傾けていた。

「何でだろうな。誰にもこんなこと話したことなんてなかったのに。何だか、色んなこと思い出しちまったよ。ついペラペラと喋っちまって。ごめんな。」

建は、申し訳なさそうに二人に謝った。

「そんな、謝らないで下さい……」

智がそう言った。気が付くと、屋上の人影はずいぶん少なくなっていた。ただ、相変わらず街の喧噪は遠くから穏やかに響き、裸電球の光によって屋上は頼りなく照らされ、曇った星空は美しく輝いていた。知らない間に月がてっぺんまで昇りつめていた。智は、それら全てをとても心地良く感じた。

「星がきれいですね」

智がそう言うと、驚いたように谷部が智を見返した。そして大きな声で笑いながらこう言った。

「馬鹿、お前、ようやく気がついたのかよ。遅いんだよ、全く」 

そう言われて智が照れくさそうに微笑むと、それに釣られて建も笑った。車座に座る三人の間を、気持の良い夜風がサッと駆け抜けていった ―――   

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