「サトシ、サトシ」
気が付くと理見が呼んでいた。
「何、もうキマッちゃったの? ちょっと早すぎじゃない?」
「ああ、ごめん、ちょっと考え事してた」
そう言って智は理見にジョイントを手渡した。理見はそれを受け取ると、深々と煙を吸い込んだ。
「どう、これ、いいでしょう? マナリーのチャラスなの。ちょっと前に手に入れたんだ。
ちょうど去年の秋に収穫されたフレッシュクリームを山ほど持ってるイスラエリーがゴアに来てて、その時買ったものなの。ほら、ちょっとこれ、触ってみて」
理見はチャラスを智に手渡した。智は理見からそれを受け取って、手で揉みほぐしながら言った。
「話には聞いたことがあるけど、これがマナリーのチャラスかあ。凄いね、柔らかい。ぐにゃぐにゃしてる」
「マナリのチャラスの中でもそのクリームっていうのはね、数が限られててすぐ無くなっちゃうのよ。質がいいからね。更にそのクリームの中でも最上級のトップクリームは、毎年世界からバイヤーが買い付けに来るっていう話もあるぐらい。世界一のチャラスを作る国がインドで、そのインドの中でも最高なのがマナリーのチャラスだから、あながち嘘とは言えないかもね。裏の世界で秘かにそんな貿易がなされていたとしてもそんなに不思議じゃないわよね」
目に入る煙を嫌って、顔をしかめながら理見は言った。そしてジョイントを智に手渡した。智は、それがマナリーのものである、と意識しながらゆっくりと煙を吸い込んでいった。まだ見ぬ山深いマナリーの地で、インド人達が、大麻畑で葉を詰みながらチャラスを作っている光景が想像された。何だか牧歌的な光景で、おかしくって思わず笑ってしまった。智のそんな様子を見て気になって、何笑ってるのよ、と理見は尋ねた。
「いやね、インド人がマナリーの山奥で真剣な顔して大麻の葉っぱ詰んでるところ想像したらおかしくってさ」
智が笑いながらそう言うと、理見もその光景を想像したようで、釣られて笑い始めた。
「ハハ、何言ってるのよ、おかしな人ね。でも、よくよく考えてみると、絶対そういう風景ってあるんだろうね。だって実際山の中でインド人達が作ってる訳だからさ。何か、かわいいわよね。いい年したインド人のおじさん達が難しそうな顔して葉っぱこねたりしてて。考えたら笑っちゃうわ。ヘロインなんかも名前聞いたら恐ろしい感じがするけど、それこそタイとかラオスの山奥で同じようにそういうお百姓さん達が育ててるんだろうなぁ」
「あっ、そうか、それもそうだよね」
「ケシの花って見たことある? すっごいかわいいのよ。ケシ坊主って呼ばれてるケシの実なんて本当にかわいらしくって、あれがヘロインになるなんて嘘みたい。ヘロインだなんて言ったら、一気にシリアスな雰囲気になるんだもの」
少し間を置いて智が言った。