そう言うと理見は、ポケットからチャラスの入ったパケットと、煙草とライターを取り出した。更に何か探し物をするようにポケットを探っていたが、どうやら見つからなかったらしく、智に、ペーパー持ってる?、と尋ねた。智は、ああ、持ってるよ、と言ってバックパックのポケットからシガレットペーパーを取り出した。それを受け取ると、理見は、チャラスをパケットから取り出してライターで軽く焙った。パラパラと指先で素早くほぐした後、煙草のハードケースを細長くちぎってくるくると丸め、口にくわえた。そして煙草を一本取り出して、それをライターで焙った。更にその焙られた煙草をばらして先程細かく砕いたチャラスと混ぜ合わせ、揉みほぐす。それからシガレットペーパーを二枚張り合わせて、口にくわえたクラッチを取り込んでいくと、それは上手い具合に煙草のフィルターのような役割を果たす。チャラスの混ざった煙草の葉はシガレットペーパーの上に乗せられる。
その作業を続けながら智の方には目を向けないで、いつも短いの使ってるの、と理見は智に尋ねた。
え、何が?、この紙よ、ああ、それね、そうだね、一人でやることが多いし、短いの使ってる
理見は、ちらっと智の方に目をやると軽く頷きながらまた視線を戻す。そうして器用にそれを巻いていき、その縁を、固く反らせた舌先で舐めあげていく。唾液で湿ったシガレットペーパーは滑らかな光沢を放っている。理見の一連のその作業は無駄の無いとても美しいものだった。うっとりと智はその様子を眺めた。
最後に理見は、出来上がったチャラスジョイントの余白をライターで燃やすと断面を平らにならすために灰皿にそれを押し付けた。朱く燃え上がった炎が魔法のように理見の白い肌を染めた。その光景は、智に、灼熱の炎の中で猛り狂うヒンドゥーの女神、カーリーを彷佛させた。夫であるシバを足下に平伏させ、生首をかかげながら赤い舌を垂らして天に向かって吠えている破壊神カーリーが、理見のその胸の奥に宿っているように思えた。理見の中にカーリーの姿を見た。心の底からそれに対する厳かな畏れのような感覚が自然と沸き上がってくるのを、智は感じていた。理見のその姿に目が釘づけになった。
無言で自分を見つめる智に気が付いて、理見は、智に向かって問いかけた。
「どうしたの、智、何かボーッとしてない?」
智は、急に理見に話しかけられて我に返った。
「ああ、大丈夫、理見ちゃんがあんまり綺麗にジョイント巻くものだからつい見とれてた。本当、上手いよね」
少し得意気に理見は、そう?、と言って微笑んだ。実際、出来上がったジョイントは美しい円錐形で、とても綺麗な形をしていた。
理見は、それに火をつけると二三回強く吸い込んで、ペーパーの燃えている境目の辺りを唾液で湿らせた。そして吐息のように軽く息を吹きかけ灰を飛ばすと、それを智に手渡した。理見の大きな瞳は智の瞳を見つめている。智は、ありがとう、と言ってそれを受け取ると、二口三口大きく煙を吸い込んだ。感覚神経を麻痺させるように全身に煙が巡る。 サドゥーと呼ばれるインドの行者は、大麻的覚醒のもとに神への接近を図る。智は、ヒンドゥー教における最も偉大な神、シバをイメージした。全身青色の破壊神は自然界に君臨し、宇宙を司っていた。熱く燃える太陽のように厳しく、残酷に、そして慈悲深く、暗い宇宙を照らしていた。その熱い輝きによって大地は育まれ、また同時に、破壊されていた。智は、自分の体を焼き尽くさんばかりに照らしつける太陽に激しい畏怖の念を抱き、同時に、砂漠の夜の漆黒を一瞬にして光で満たすその輝きに、深い慈愛を感じた。その圧倒的な力の前に、自分はなんて非力なのだろう、と気の遠くなる思いがした。またも、全身が脱力していった。