智は、理見のそんな質問にはあまり魅力を感じられず、少し投げやりな気分になった。もっと、理見に対する自分の気持ちを刺激してくれるようなやりとりを期待していた。
「最悪だったよ。ラクダに乗ってただひたすら砂漠を行くだけ。野宿だし、ラクダ使いのじいさんは金のことばかり言ってきて鬱陶しいし……。行かない方がいいよ、あんなの」
苦笑いしながら智はそう言った。理見は、智の話を聞いているのかいないのか、黙って智の顔をじっと見つめている。
「ちょっと焼けたね」
理見は、智の顔を覗き込んだ。
「痛くない? 赤くなってるよ」
そう言うと理見は、智の頬をそっと撫でた。智は、全身が痺れるような感覚を得て、少しの間放心した。それは恐らくほんの数秒のことだったろう。しかしその短い時間、智は、全てが静止したような、音も映像も何もない、全く別の空間へと飛翔していた。それは智にとって限り無く永遠に近いものだった。
不思議そうに智のその様子を覗き込む理見の瞳が、智を現実の世界へと引き戻した。
「あのさ、理見ちゃん、俺、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
ぎこちなく智は理見に言った。
「何?」
「プネーには一人で行くの?」
硬直した笑いが智の表情に貼り付いた。もちろん智は一希のことを気にかけている。どうか、一人で行く、という言葉を聞きたかった。一希と二人で行くなんてことは、間違っても理見の口からは聞きたくなかった。智は不安だった。理見は、そんな智の内心の動揺など全く気が付いていないらしく、簡単にこう言った。
「一希と二人で行くの」
それを聞いた智の全身は、重く、地面に吸い込まれて行くようだった。苦いものが腹の底から口の中に込み上げてくる。冷や汗が吹き出し、顔から血の気が引いていった。激しい疲労を智は全身に感じた。ぐったりと体が前のめりに倒れ込んで行くようだった。
「私、今一希と部屋をシェアしてて、私がプネーに行くって言ったら、彼も一緒に来るって言うから二人で行くことにしたの。そういえば智には変なとこ見られちゃってたわよね。あの時は一希が持ってたキノコ食べてて、思いっきりブッ飛んでたの。あんまりそれが凄かったものだから……。ごめんね、みっともないところ見せちゃって。でもそのキノコ、本当に凄かったのよ。あんなのって久しぶりだったわ。智は、キノコって食べたことある?」
「いや、ないよ……」