「ふうん、そうなんだ」
理見は、運ばれてきたカリフラワーとじゃがいものカレーをスプーンですくいながらそう言った。
「どう? インドは好き?」
そう聞かれて智は、少し迷ってからこう答えた。
「そうだね、好きかな、今となっては。でも色んな人がインドの話をするとき、決まって人生が変わるだの、凄い国だ、だの言うでしょう? 俺はそんなのが嫌で、始めの内は変な反発心からインドに対する敵愾心に燃えていたんだ。何だよ、そんな大したもんかよ、俺は絶対変わんねえぞ、ってね。けど実際来てみると、だんだん呑み込まれていった。やっぱり強烈な国だね、この国は。色んな面があって決して一つじゃないから飽きない、というか。ちょっと考え方とか変わったかな? 変わるもんかって思ってたけどまんまとやられたよ」
理見は、大きな黒い瞳で智をじっと見つめている。智は、そんな理見の視線に少しまごついた。
「理見ちゃんはどうなの? どれくらいインドにいるの?」
「私も二三ヶ月よ、それぐらい。だから、インドに入国したのは智と同じぐらいかな、時期的に」
「やっぱりインドは好き?」
「そうね、好きとか嫌いとかいうよりは、何かに惹かれてるんだと思うの。私、これが三回目のインドで、前回来たときは一年ぐらいいたのよ。この国にね。何でだろう? 今日みたいに腹立つこと多いし、インド人なんて全然好きじゃないし、むしろ私、ああいう暑苦しい顔嫌いなのよ。でも、そんなに長くいられるってことは、やっぱり好きなんだってことなのかなあ。嫌なこともいっぱいあるけど、何故か来てしまう、そんな感じかな」
「三回目、ね……。ところで理見ちゃんって、日本では一体何してたの?」
「何って?」
「仕事というか、日本での生活というか……」
「どうして?」
「だって気にもなるよ。もう三回もインド来てるんでしょ? それに前回の滞在は一年で、今回の旅行期間も、もう…一年半? 日本では一体何してんのかなって思うよ。それに理見ちゃんは、そんな風にインドだとかアジアの国を長く旅してるようにはとても見えない」
智の顔を見ながら理見は少し微笑んだ。
「じゃあ、どういう風に見えるの?」
「一人旅してるようには見えないし、もし旅してるんだとしても、ヨーロッパだとかアメリカだとか、もっとこう、小綺麗な所を旅してそうだ」
理見は、スプーンを置いてコップの水を一口飲むと、声を押し殺すように笑いながら言った。
「私、インド似合ってない?」
「うん」
理見は、大きな声で口を開けて笑った。