スキンヘッド

「髪が今、中途半端な長さだからとても気になるの」

髪を掻き上げながらその沈黙を破るように理見がそう言った。

「伸ばしてるの?」

理実のその様子を眺めながら智が尋ねる。

「まあ、ね。伸ばしてるって言えば伸ばしてることになるんだけど、あんまり気にしてないわ。実は、私、ちょっと前までスキンヘッドだったの。だから、ほったらかしって感じ」

理見は、少し照れながら自分の頭を撫でた。

「スキンヘッド? 一体どうして?」 

驚いて智は聞き返した。

「どうしてって言われても特に理由は無いんだけどね。ミャンマーにいた時に一緒に旅行してた人がそうするって言うから私も一緒にしてみたの。思い切って。でも暑かったから、涼しくなってちょうど良かったわよ」

両手で髪を後ろに束ねながら、理見はそう言って笑った。無造作に伸ばされた髪を後ろにまとめた理見のその姿は、彼女の白い肌と形の良い額とを際立たせた。そして黒く大きな瞳は、中性的な輝きを放ち彼女を一人の美しい青年のように見せていた。

「スキンヘッド、ね……。理見ちゃんって、一体どれぐらい旅してるの?」
「一年半、ぐらいかな? 途中で何度か日本に帰ったりしてるから、正確には良く分からないけど……」
「ミャンマーってことは、東南アジアの辺りからずっとこっちに向かって旅してきたの?」
「まあ、そうね、そんな感じ。それより、ちょっと何か注文しない?」
「ああ、そうか、そうだよね」

智は、思い出したようにウェイターを呼んだ。どこの町でも、こういったツーリスト向けの安レストランで出されるものは同じような物ばかりだ。理見も智も、やはり何度も食べたことのあるようなありきたりの物を注文した。

理見が少し横を向いている間、智は理見の顔をまじまじと眺めた。そうして今、強く理見に引き込まれている自分を発見した。理見の持つ強烈な印象に圧倒され始めていた。理見のような女に智は今まで出会ったことがなく、彼女の口ぶりや動作などの全てが智を惹きつけた。

「サトシ、だっけ」

理見はそう言った。

「そう、サトシ、一ノ瀬 智」
「智は? インドは長いの?」
「二ヶ月、いや、三ヶ月ぐらいかな。旅自体は、もう一年ぐらいしてるんだけど」

智は、旅経験の豊富そうな理見に対し劣等感を感じ、聞かれてもいないのに自分が一年以上旅しているということをアピールした。

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