「ジャパニ?」
サドゥーは言った。目の前に立つサドゥーを見上げて、智は、ああ、そうだよ、ジャパンから来たんだ、と面倒臭そうに、そう答えた。
「座ってもいいか?」
智は無言で頷いた。サドゥーは、智の横に腰を下ろすと、おもむろに智の顔を覗き込んだ。サモサを食べていた智は、一旦それを皿の上に置いて横目でサドゥーを見た。皿にはサモサが二つ乗っている。サドゥーは、それと智の顔を交互にせわしなく見やっている。智がしばらくそれを無視していると、サドゥーは、とうとう、それをくれないか、と智に切り出した。あらかじめ予測していたその問いかけに、智は、諦めのこもった口調で、ああ、いいよ、と、仕方なくサモサを一つ差し出した。するとサドゥーは、途端に嬉しそうな顔をして一言礼を言うと、それを食べ始めた。そして食べながら智に言った。
「インディアで何をしているんだ」
「旅行だよ」
「仕事か?」
「いや、ただの旅行」
「学生か? インディアで何か勉強しているのか?」
「いや、ただインドを旅行しているんだ」
「何故だ?」
「何故って、ただの観光だよ」
サドゥーは、智を真剣な眼差しでしばらく見つめながら少し間を置いて、そうか、と言った。
「インディア、グッド。サモサ、グッド、ナンバルワン」
アールの発音が必要以上に巻舌なインド独特の発音で、サドゥーは、ナンバーワン、とそう言った。サモサを口いっぱいに含んだまま、智に明るい笑顔で微笑みかけた。
智は、ぐったりと疲労が吹き出してくるような気分で、力の無い笑みを彼に返した。
「ババジは何してるの」
全く知りたくもないそんな質問を、気を遣って智はサドゥーに投げかけた。しかしサドゥーは、その言葉には耳を傾けず智の手元にあるチャイのグラスをじっと眺めている。サドゥーのその視線に気が付いた智は、わざとそれに気が付かないふりをして、もう一度大きな声で聞き返した。
「それで、ババジは何してるの?」
サドゥーは、そんな智を無視して智の目を見つめながら、チャイ?、と言った。サモサを食べて喉でも乾いたのだろう、チャイをよこせと言っているのだ。智は、大きな溜め息を一息つくと、叫ぶようにこう言った。
「嫌だよ、サモサあげただろ、何でチャイまで飲むんだよ!」
するとサドゥーは、お前のその言葉には全く持って驚かされた、と言わんばかりに、大きな目を剥きながらこう言った。
「マイフレンド、お前はジャパンから来たんだろ? ジャパン、ベリー・リッチ、メニー・マネー、チャイぐらいいいじゃないか」
智は、もうこれ以上こんなことでエネルギーを使うのはごめんだったので、仕方なく彼のためにチャイを一杯注文した。
「全く何なんだよ、何でこんなことしてんだよ、俺は」
日本語で智はそう呟いた。