しどろもどろになりながら、やっとそれだけのことを智は言った。
「そうだったのか、いたんだ、ハハ、分かんなかったよ……。でも何せ、ごめんな、智……」
少し照れ臭そうに直規はそう言った。
「いや、直規、俺の方こそ何か、いい加減なこと調子に乗ってべらべら喋っちまって……。多分それで怒ったのかなって……。悪かったよ……」
智が言った。
「いや、智は謝らなくていいんだ、あれは俺の問題だったんだよ。あのとき智の言っていたことは、何となく分かるような気がするんだ、俺も……。そういうことってみんな誰でも、何となくは分かってると思うんだ、多分。シラフだろうが、キマッていようが、心のどこかでそういう世界のことは意識してると思うんだよ。でもキマッてる時なんかは特にそうなんだろうけど、みんなそういうことにはあんまり目を向けないようにするんだ。どうしてって、怖いからさ。死んだりすることを考えるのが怖いんだ。俺もそうだった。智の話が、俺の見ないようにしてるそういう部分をあからさまに刺激するものだから、怖くってああいう態度をとってしまったんだ。みんな、怖いからアシッドとか喰って上っ面のいい所だけでトリップできるようにトランス聴いてガンガン踊るんだろ? 恐怖を忘れるために踊るんだ。止まっちゃいけない。追ってくる死に神から逃げ切るために、そいつを見ないようにするために、頭ん中空っぽにして踊り続けるんだ。それは……、祈りみたいなもんだろ? 原始的で、最も初歩的な。ちっぽけな人間が裸で泥だらけになって踊り狂って、昇りくる朝日に向かって祈りを捧げる。儀式みたいなものさ。ゴアで行なわれているパーティーっていうのはそういうことなんだよ、きっと。智が言ってたのはそういうことじゃないのか? だからみんなは、智みたいに立ち止まって死に神と対峙することをバッドって呼んでんだよ。そうだろ? 智、お前が見たのは神様なんかじゃなくって死に神だろ? お前はそいつと一晩中闘って生き延びたんだよ。だけどな、智、みんながお前みたいに死の恐怖と闘えるわけじゃないんだ。だから反射的に、あんなこと言っちまったんだよ、俺は。今はこうやって整理して話すことができるけど、あんときはブラウンキマってたし、良く分かんなくってビビってイライラしたんだと思う。ごめんな、智、許してくれ」
智は、直規の話に言葉が出なかった。そればかりか、ちょっと得意気に自分のアシッド体験を話していた自分に気が付いて、まるで自分が阿呆のように思えてきた。
直規は、自分以上に自分の一晩の体験を理解している。あの時見た極彩色の輝きは、神の光などでは決してなく、死の世界へと誘う死に神の誘惑だったのだ。今、直規に言われてようやくそれに気が付いた。
――― そうだ、もし本当に神の光に包まれて幸せに満ちているのであれば、生きていることに感謝こそすれ、死にたいなどとは思う筈がない。死の恐怖など、そう簡単に消える筈がない ―――