やっぱ凄ぇよこれ

「ああ、いい匂い、キマッてる時いいよね、お香って。リラックスできる」
「やっぱ大事でしょ、こういうのって」

そう言って横になろうとした途端、心路は、ああ、ちょっと待って、マズイ、俺ちょっと吐いてくるわ、と言いいながら慌ててトイレに駆け込んだ。

扉の無いトイレの向こうで、心路が苦しそうに吐いているその様子がはっきりとイメージされる。呻き声や、唾を吐く音、鼻をかむ音、それらの音がはっきりと聞こえてくるのだ。心路は、朦朧とした表情でトイレから出てくると床に倒れ込んだ。

「ああ、やっぱ凄ぇよこれ、吐き過ぎで喉切れてるよ」
「うるせぇよ心路、お前の吐いてる音で気分悪くなるじゃねぇかよ」

直規は、心路に向かって強い口調でそう言った。心路は、突然の直規のその言葉に面喰らって驚いたように言い返した。

「ひでぇな直規君、自分だって吐いてるだろ、何だよ、何怒ってんだよ?」

直規に向かって心路はそう言った。

「何でもねぇよ、ちょっと黙ってろよ」

直規は、心路を睨みつけながらそう言った。心路は、何か言いたげだったが何も言わずに視線を戻した。直規の突然の変化に智は少し戸惑った。

「何、どうしたの直規、どうして怒ってるの?」

直規は智に視線を向けた。

「うるせぇんだよ、お前もちょっと黙ってろよ」

智は呆然と直規を眺めた。

「えっ、何?」
「だから、うるせぇって言ってんだよ」
「え、どうして? 俺、何か気に障るようなこと言った?」
「だから、とぼけたこと言ってんじゃねぇって、下らないこと言ってんじゃねぇよ、お前のそういう話はムカつくんだよ」

鋭い視線で直規は智の目を見据えながらそう言った。突然のことで智は、何が何だか訳が分からず、頭の中が混乱してしまって自分の置かれている状況が良く呑み込めない。顔から血の気が引いて、胸の辺りがムカムカする。

「えっ、どういうこと?」

混乱した頭で智は直規に問い正した。

「だから、ムカつくって言ってんだよ」

直規は、今までとは別人のような表情で智に向かってそう言った。

頭がふらふらした。胸が締め付けられるように苦しくなっていく。あとは何も言葉が出て来なかった。ただ、直規が自分にそんな態度を取ったという事実がとてもショックで、智の意識は朦朧としていた。

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