「出たよ、智の神様トーク」
直規は、薄ら笑いを浮かべながらそう言った。心路は、横目で直規を流し見ながら智に言った。
「凄い話だよなぁ、相当バッド入ってたんだろうな。でも、そうなるっていうのは何となく分かるような気もするよ。そういう感覚っていうのは気付かないだけで、きっといつもどこかに隠されてるんだろうな」
「本当に分かってんのかよ」
直規が、ぼそっと吐き捨てるようにそう言った。心路は、ちらっと直規の方に目をやったが、それを聞き流した。
「やっぱりそれってバッドってことなんだろうか」
智が尋ねた。
「死にたい、って思うんだったらバッドでしょ」
心路が言った。心路もブラウンが効いてきたらしく、しきりに首をまわしたり、瞬きをしたりしている。
「でも、俺にとっては凄くいい経験だったなって思ってるんだよ。確かに怖かったし、死っていうものを物凄く身近に意識したりはしたんだけれど、そのおかげで色んなことが分かったと思うし、成長したとも思ってる。だから、バッドっていうのとはちょっと違うと思うんだけどな」
「そういうのをバッドって言うんだよ」
直規は、横になったまま天井を眺めながらそう言った。心路は、直規を一瞥したがそれを無視して智に言った。
「その辺は俺には難しくて良く分かんないけど、やっぱり死にたくなるっていうのは良くないことなんじゃないのかな」
「そうなのかなぁ……」
曖昧な気持ちで智は返事をした。
「それより、これってやっぱすごいよな」
心路は、落ち着きなくそわそわしている。大分効いてきたようだ。
「直規君は、もう大丈夫? 吐き気とかしない?」
「ああ、大分楽になった……。ちょっとは慣れてきたみたいだ……」
直規はずっと天井を眺めている。
「智も、全然気持ち悪くなったりしない?」
「ああ、大丈夫だよ、吐き気はないし凄くいい感じ。音楽聴いてればもう幸せだよ」
うっとりと目を閉じながら智はそう言った。心路は、ベッドの下に転がっている香の束から一本香を引き抜いて、それに火をつけた。煙が、細く、ゆっくりと上がっていく。香の薫りが部屋中に広がる。