おみやげ屋2

ロシャンの家の家族構成は、父、母、ロシャン、奥さん、子どもの5人である。
奥さんは若い。というより幼い。
歳を尋ねると16だという。
聞くと、彼女が13歳のとき、ロシャンと結婚したという。
13歳で結婚。私は驚いた。

ネパールの法律にも、結婚をするには年齢制限があり、奥さんの結婚当時の歳は当然ひっかかるのだが、世間ではそんなことお構いなしに結婚してしまうらしい。
それに、彼の結婚した理由がおもしろい。
ロシャンがいうには、彼は若いころ女の子にもてたと言う。
そのころ、つきあっている女の子がいて、その子のことが大好きだった。
ある日、いまの奥さんに、好きですと言われ、それにロシャンは、嫌いだとこたえた。
そしたら奥さんはビービー泣きだした、ロシャンはそれで奥さんとつきあうことにし、結婚したという。
男が結婚する理由なんて、そんなものかもしれない。

家には部屋が二部屋あった。
一部屋は、台所、食堂、居間、父母の寝室を兼ねた14畳ほどの大きな部屋。
もうひとつは6畳ほどの、ロシャン、奥さん、子どもの寝室。
さっそく、私は食事をごちそうになる。
この日の夕食はダルバート。
ごはんに豆のスープをかけて食べる、ネパールのオーソドックスな食事である。
日本でいえば、ごはんにみそ汁を少しかけて食べるのに似ている。
私が来るからと、山羊の肉がダルバートに入っている。
これが恐ろしく硬い。
どんなに噛んでも噛み切れない。
仕方がないから、飲み込むことにした。
ロシャンは私にチャンをすすめる。
チャンとは、米からつくった酒である。
日本酒とは違い、簡単につくれるらしく、味もうすい。
ロシャンはこれをライスビールだと言って、私にすすめる。
この日は、ロシャンとその友人、私の3人で遅くまで飲んだ。

ある日、ロシャンの店へチェスをしに出かけると、チェスがない。
先ほど売れたという。
良かったじゃないか、幾らで売れたの、と聞くと、450ルピーという。
ロシャンと一緒に仕入れに行ったことのある私は、その仕入れ値を知っている。 「あれは400ルピーしたじゃないか、せめて600ルピーで売れよ」
ロシャンを責めた私に、彼はめずらしく反発する。
「50ルピーでも、僕にとっては大きなもうけなのだ」

カトマンズを離れる前、私はなにかロシャンの家族にお返しがしたかった。
私は彼の家で、ダルバートを10食以上はごちそうになっている。
「なにが良い」
ロシャンに尋ねるが、彼は遠慮しているのか何も言わない。
考えてみる、という。
店にロシャンの姉の子が遊びに来ていたので、彼に聞くと、小さな声で果物という。  
果物も良いな。
だが一応、ロシャンに両親にも聞いてみてくれ、と言っておく。

翌日、私はロシャンの店に行く。
「なにが良いと言っていた」
ロシャンは言いにくそうに、こう言った。
「お米」
彼の家は決して裕福ではない。
私は、その裕福ではない家で、何度もごちそうになった。
申しわけなく思う。
私は、彼と彼の家族に感謝して、お米を一俵プレゼントした。

いとう某 22歳のとき初めて行った海外旅行で日本とは違う世界に衝撃を受ける。まだ見ぬ世界、自己の成長と可能性を求めて旅した国は、5年間で35ヶ国。思い出に残る旅はエヴェレストを見たヒマラヤトレッキング。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください