ジミ・ヘンドリクスって知ってるかい?
ある、天才ロック・ギタリスト。ギターを共鳴させる天才。
彼にとっては言葉を話すより、ギターを弾くことの方がより有効なコミニュケーションの手段だったんだ。
ヴードゥーの申し子。悪魔に魂を売ったギタリスト。
ドラッグとブルースに溺れた男。悲しい男。
ネパールの山奥の山小屋に、奴が壁に書き付けた落書きがあるんだ。
それは、こんな詩の一遍。
「ヴードゥー・チャイルド」
俺は氷山の頂きを眺めていた。
俺は今にも崩れ落ちそうだった。
俺は氷山の頂きを眺めていた。
俺は今にも崩れ落ちそうだった。
氷山を形作っているそのかけらは、突き詰めれば砂のひとつぶ ひとつぶに帰するのだ、と一人納得していたのだ。
そうさ、分かるだろ?
俺は、ヴードゥー・チャイルド、
ああ、神様、俺はヴードゥー・チャイルドなんだよ。
俺はもうお前を必要としない、そう、必要としないんだ。
この世では、な。
来世で会おう。向こう側の世界で。
そのとききっとまたお前と出会える。
どうか咎めないでくれよ、
俺は、ヴードゥー・チャイルド、
ああ、神様、俺はヴードゥー・チャイルド。
連れていってやるよ、素敵な世界へ。
見たこともないような世界へ。
そうさ、俺はヴードゥー・チャイルド、ヴードゥー・チャイルド………
ギターは共鳴して哭いている。
ヒマラヤは、天空を切り裂いている。
コバルトの青空は、そこから流れ出る青い血液のように空間を埋め尽くし、ジミはそれを眺めながら、砂のひとつぶひとつぶを想っていたんだ………
最大と最小。
分子レベルの極小から果てしない宇宙の広がりまで世界は同時に存在し、まるで何の矛盾もないかのようにただ単純に美しく、目の前に圧倒的に広がっている。
ヒマラヤの冷たさはオレを殺した。
ジミもそれを見て同じように感じていたのかと思うと興奮する。
それを感じながら、”ヴードゥー・チャイルド”を書いたのだ。
オレもきっと、ヴードゥー・チャイルド。
果てしない天の道を眺めつつ、地面の底の底を這いつくばってゆく、ヴードゥー・チャイルド。
ああ、神様、こんなオレを許してくれよ、慈悲深い全能の神よ、罪深いこのオレのためにどうか祈りを捧げてくれ………