11月初旬、空に浮かぶ大きな満月を見て思い出したことがあります。
数年前の同じ満月の日、私は火の玉をタイ北部の古都チェンマイで見ました。
それは夜のとばりが降りる頃で、生ぬるい風が吹いていました。
空を見上げると、何もないはずの青黒い空に火の玉が一列に整列し、浮遊していました。
その数は50や100はあったかもしれません。
地上からもはっきりと視認できるほどの大きさで、これまでに聞いていた青白い小さな炎ではありませんでした。
オカルトや超常現象の類をあまり信じていない私ですが、これには驚きました。
今自分が目にしているものが現実なのかそれとも夢なのか自問自答し、出した答えが「これは現実」でした。
落ち着いた目でもう一度火の玉を見てみると、風に流されて一列に並んでいるものの元をたぐれば出所は地上からのようです。
これが現実ならば火の玉が空に浮かぶ道理がわかりません。
火の玉の発生地を確かめようと歩き出しました。
道行く人は空に浮かぶ火の玉に驚いた様子はありませんでしたが、私と同じように火の玉の発生地に向かっていました。
途中、いつも立ち寄る店の店主に今起きているこの不思議な現象を訊ねてみました。
「今日は灯篭流しのお祭りだ。チェンマイでは灯篭を川にも流すが空にも流すんだ」
「空に流す?」何だかよくわからない答えが返ってきましたたので自分の目で確かめることにしました。
そこから程ないところにある川のほとりでようやく火の玉の正体がわかりました。
火の玉は熱気球だったのです。
筒状の白い袋を逆さまにして、丸く開いた口のところに火をつけ袋の空気を温めます。
十分温まった空気は外気より軽く、手を離すと空に浮かんでいきます。
提灯が浮かんでいく様子を想像してもらうと良いかもしれません。
ロイカトーン/Youtube動画
夜空にオレンジの炎が次々に飛び立つ様子は大変幻想的です。
風に流され、何百もの灯篭がまるで意思を持った生き物であるかのように同じ方向へ向かっていきます。
無数の光が一点に向かい昇って行く姿を見ると敬虔な思いが湧き起こってきます。
このロイカトーン(Loy Krathong)のお祭りはタイ全土で行われます。
チェンマイのロイカトーンはその中でも特に有名なのですが、私はまったく知らずに来てしまったのです。
道理でいつもガラガラのホテルはどのホテルも観光客でふさがっており部屋を探すのに一苦労しました。
今月2日に行われたバンコクのロイカトーンの様子を友人が撮影し、写真を送ってくれました。
こちらは川に灯篭を流します。
花やろうそくで飾られた灯篭
火をつけてお祈り
川へ流された灯篭
チェンマイは13世紀頃から20世紀初頭まで続いたラーンナー王朝の首都で、カレン族銀細工の村はここから車で約3時間のところにあります。
朽ちた城壁と堀がかつて王都であったことを思い出させてくれますが、それ以外は特に見所の少ない街です。
日本の田舎町にも似て懐かしい気持ちにさせてくれる居心地の良いところです。
機会があればぜひ行ってみてください。