「ハハハ、食べてたじゃない。俺も。何、何にも憶えてないの? そうとうブッ飛んでたみたいだね。俺も智と一緒に食べてて、智は、俺が食べてる間中、これ、おいしいですね、って何度も俺に言い続けてたよ。ハハハ。俺も智ほどじゃないけど、相当飛んでたよ。ようやく今落ち着いてきた所さ。効きが長いからね。腹に入れると」
「何だ、そうだったんですか。しかし、俺、ひどいですね。岳志さんにそうやって言ってたことすら憶えていないなんて……。いやあ、あんな風になったのは初めてでしたよ……。視界はチカチカ小刻みに揺れ続けるし、音は何かに反響してるみたいに何もかもグワングワンいってるし。多分、話しかけられても何言ってるかまるっきり分かってなかったんだと思いますよ。それで何だか意識失ったみたいになっちゃって……。何か不思議な体験をしていたような……」
智は、先程見ていた夢の内容をすっかり忘れてしまっていたようだった。頭を捻って必死に思い出そうとするのだが、何も出て来ない。そんな智に岳志がぼそっと声をかけた。
「確かさっき、婆ちゃんのチョコレートケーキがどうとかって言ってたみたいだったけど……」
「婆ちゃんのチョコレートケーキ? えっ? ああ、それは……、確か……、昔住んでた家の近くにあったケーキ屋さんのケーキのことなのかな。凄くおいしくって、婆ちゃんが生きてた頃、よく俺に買って来てくれてたんですよね。それがどうかしたのかな?」
智は再び首を捻った。
「さあ……。どうか分からないけど、確かそうやって言ってたと思うよ。プレマの作ってくれたスペースケーキがチョコレート風味だったんで、昔食べてたそのケーキのことを思い出したんじゃない?」
岳志は、チャラスを乗せたジョイントペーパーをくるくると器用に巻きながらそう言った。
「ああ、きっとそうですね。久しぶりにチョコレートケーキなんて食べたから、それで思い出したんでしょう、きっと。しかし、本当においしかったんですよ。婆ちゃんのチョコレートケーキは」
智は、何とかしてそのことを表現しようと力を込めて岳志にそう言った。岳志は、分かった、分かった、という風に頷きながら、笑顔で、巻き上げたジョイントに火をつけた。
「そういえば、さっきまたババが来てたんだよ」
岳志は、ジョイントを一服大きく吸い込むと、思い出したようにそう言った。
「え、ババって、昨日のクレイジーなシークのババですか?」
岳志は、ジョイントを手渡しながら意味ありげな微笑みを智に向かって投げかけた。
「やっぱり憶えてないんだ。智がブッ飛んでいる間に来てたんだよ。智も喋ってたんだぜ、ババと」
「俺が? ババと喋ってたんですか?」
智は、少しの間考えを巡らせるように目を閉じた。
「駄目だ、全く憶えていない……」