ぼくら恋人になろう、結婚しよう、これから先、ずっと一緒に暮らそう
ぼくは、キャシーに言ってみました。
少しなら、お金はあるんだ。
煙草と、ミセス・ワグナーのパイを買って、歩き始めた。
アメリカを求めて。
アメリカを探しに、アメリカを探しに……
ピッツバーグからグレイハウンドに乗って、ぼくは言いました。
“キャシー、もうミシガンだなんて夢みたいだよ、昔はね、シグノウからヒッチハイクで四日もかかったんだ。
ぼくは、その昔、アメリカを見たくて旅にでた。アメリカのことをもっと知りたくって旅にでたんだ”
長い長いバスの中、ぼくらは子供っぽい遊びをして、時間は退屈なバスの中の空間をゆっくりと循環するように過ぎていきました。
“気をつけて、ギャバジンのスーツを着たあの男、きっとスパイよ”
“奴のあのネクタイは、カメラになってるんだね”
“ええ、そうよ、奴らに私達が何ものかってことを気付かれないようにしなくちゃいけないわ”
しばらくしてそんな遊びにも飽きたぼくたちは、することもなく煙草でも吸おうかと思いました。
しかし、どうやら最後の一箱は一時間も前に吸い終わってしまっていたらしいのです。
仕方なく彼女は退屈してつまらない雑誌なんかをぺらぺらとめくっていました。
ぼくは、ぼんやりと窓の外の景色を眺めることにしたのです。
明るい電気のついた車内に反射して、窓は、ぼくのぼんやりした顔をぼんやりした顔そのままに映し込んでいました。
窓に映った自分のその顔と、背後に絶えまなくどこまでも広がっていく平原の様子を、どちらを見るともなくぼんやりと眺め続けていました。
日も落ちて、平原の向こうには月が浮かんでいきました。
ゆっくりと、浮かんでいきました。
ぼくは、キャシーに向かって言いました。
今となっては、彼女は眠ってしまっているというのは知っていたんですけれども、言ってみました。
“キャシー、辛いんだ、何だか分からないけど苦しいんだ、
胸が痛くってたまらない、
どうしてだろう、どうしてだろう……”
夜が明けて、次の日のニュージャージーターンパイクでは道ゆく車の数を数えたりして遊びました。
アメリカを見つけにやって来たのです。
みんな、アメリカを探しに。
アメリカを求めて、アメリカを求めて……