「よお、どう、調子は。元気?」
智は、少し緊張して微笑みながら、ああ、まあまあだよ、と答えた。小さく頷きながら一希は、そう言えば、と何か思い出したように話し始めた。
「明日、パーティがあるって」
心路は、瞳を輝かせながら一希の方を振り返った。
「マジで!?」
一希は、顔をしかめて小刻みに何度もジョイントを吸い込みながら、小さく頷いた。それは、一希の特徴的な吸い方だった。一希は煙草もそうやって吸う。
「それ、どこからの情報なの? 確かなんだろうな?」
一希に詰め寄りながら心路はそう言った。一希は、心路に煙を吐きかけながら、まあ落ち着きなよ、となだめるように言った。心路は、目を細めながらその煙を払った。
「オーガナイザーのイスラエル人に聞いたんだよ。ゴアから知ってる奴さ。DJもそろそろ集まってきたし、明日の晩なら大丈夫だって。今頃、会場組んでるところじゃないかな」「マジかよ!? やったぜ! この一週間、どんだけ首を長くして待ってたことか! やったな、おい!」
心路は、興奮しながら智の肩を叩いた。
「でも待ってよ、心路。パーティって言ってもまだそんなにでかいやつじゃないぜ。集まっても二三十人ぐらいの小さなものさ。まだここもそんなに人が集まってきてる訳じゃないから……」
「馬鹿、いいんだよ、そんなことは。少ないって言ったってこの前ぐらいのもんだろ? パーティさえあればそれでいいんだよ」
そう言いながら心路は一希を抱きしめた。一希は、呆れた様子でそんな心路を尻目に天を仰いだ ―――
その晩、同じ宿に宿泊しているタトゥー職人の仁の部屋に、心路や一希の仲間が集まってボンをした。仁は、ゴアやマナリーだけに限らず、世界中のパーティプレイスをタトゥーマシンを携えながら旅をしているタトゥーイストだ。そこに集まってくるレイヴァー達にタトゥーを施しながら生計を立てている。そんな仁の部屋に皆が集まったその晩は、智がマニカランで手に入れたフレッシュクリームの話題で持ち切りとなった。皆、その効力に心酔してしまったのだ。
「これ、凄いね」
目を閉じて瞑想するような姿勢で仁がそう言った。
仁は、当時、その効きの強さと手に入りにくさで伝説となっていた「ホフマン」というLSDを続けざまに五枚摂っても意識を喪失することなく、三日三晩続いたパーティをぶっ通しで踊り続けたとして、最早伝説となっている程の男だった。その伝説は、コアなレイヴァー達の間では既に語り草となっており、当時ゴアにいた者なら大抵その話を知っていた。