――― 俺は、あの場面を憶えている! あの後買ってもらったチョコレートケーキも! 確かあの頃近所にできたばかりのケーキ屋さんで、あのとき初めて買ってもらったんだ。そしたらそれが凄くおいしくって、俺はえらく気に入ってしまって……。俺の喜ぶその様子を見た婆ちゃんは、それからことあるごとにそのチョコレートケーキを買ってきてくれるようになって……。それ以来俺の大好物になったんだけど、その後、高校生になったとき、婆ちゃんが亡くなるのと同じ頃に店が潰れてしてしまって……。そうだ、今までずっと忘れてしまっていたけど、俺は、あのチョコレートケーキが大好きだったんだ。それに、あの場面! そう、あの店に婆ちゃんと行く前、俺は、公園で不思議なものを見てたんだ。それが何だったのかずっと思い出せなかったのだが、あれは、今現在インドにいるこの俺自身だったんだ! そうだったのか! でも、そんな不思議なことが…… ―――
智は、地面に腰を下ろしたまま二人の立ち去った後をじっと眺め続けていた。しばらくそのままの姿勢でずっとそうしていると、ふいに意識が遠のいていき、それと共に体全体がふわふわと宙に浮かび始めた。智は、恍惚とした気分となって再びその波に身を任せていった……。
気が付くと、辺りは妙に静かになっていた。薄暗く、窓の外は深い闇に覆われており、部屋の中は、幾つかのランプの灯りによって頼りなく照らされていた。色彩が、変に色濃く智の目の中に飛び込んで来る。智は、自分の体が椅子からずり落ちそうになっていることに気が付き、慌てて体勢を整えた。すると、頬杖をつきながら窓の外をぼんやりと眺めていた岳志が、智の方を振り向いて言った。
「よお。目、覚めた?」
智は、正気を取り戻そうと左右に激しく頭を振った。
「あ、あれ、オレ……」
不安そうに智が周りを見回していると、岳志が、智に何か説明するように話し始めた。
「ああ、よく眠ってたよ。三時間ぐらいかな? 机の上に突っ伏したり、そのままベンチに寝そべったり。もっと楽な所へ動かしてやろうと思って声をかけると、ああ、いいです、いいです、ってそればっかりで結局ずっとそこにいたんだよ。全く。食べ過ぎだよ、智。あんなに食べたらそりゃブッ飛ぶさ」
岳志は、ポーチからチャラスを取り出しながらそう言った。
「食べたって? チョコレートケーキを? 婆ちゃんのチョコレートケーキを俺は食べたんですか?」
智がそう言うのを、岳志は怪訝な表情で見つめ返した。
「え? 婆ちゃんのチョコレートケーキ? 智、何言って……、ああ、夢でも見てたんだな。違うよ。智が食べたのは、プレマが焼いたスペースケーキだよ」
「スペースケーキ?」
智は、ポカンと口を開けたまま岳志の顔を眺め続けた。そしてしばらくして、ようやく思い出したように手を打った。
「ああ、そうだ。俺、チャラスのケーキ喰ったんですよね。思い出した。思い出した。すいません、何か夢見てたみたいで……。俺、そんなに長く眠っていたんですか? 岳志さんは、見たところ大丈夫そうなんですけど、食べなかったんですか?、スペースケーキ。もうジョイントなんか巻いてるし」
智は、ココナッツの中でチャラスと煙草の葉を混ぜ合わせている岳志の指先を見つめながらそう言った。
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『おれはgoogleでバクシーシ山下を検索していた
と 思ったらいつのまにか半日かけてブログを読んでいた』
な… 何を言ってるのかわからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ
断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
執筆がんばって下さい。
俺も金貯めて旅に出ます。