岳志がそう言うのを聞いて、智は少し安心してジョイントに火をつけた。
「それと、智。後、もうワン・トラずつあるらしいんだけど、どう?」
岳志のその言葉に、智は、自分が吐き出した煙を煙たそうに手で仰ぎながらこう言った。
「えっ、まだあるんですか? もうワン・トラって言ったらさっきのと合わせてツー・トラで、全部で二十グラムってことですよね? でも、俺、お金そんなに持ってる訳じゃないし、もう七百五十も出せませんよ。それにさっきのクリームぐらいの質のものだったら、十グラムもあれば充分過ぎるぐらいです。だから、もうワン・トラっていうのはちょっと……」
「違う違う。あのクリームはもうあれで終わりさ。もうワン・トラっていうのは普通のチャラスのことだよ。でも、マナリーのものだから十分質はいいんだけどね。トラ、二百五十だって。さっきのお釣りでちょうどいいじゃん。どう?」
もう一口ジョイントを吸い込むと智は岳志にそれを渡した。岳志は、ボン、ボン、と言いながらそれを受け取った。
「そうなんですか。でも俺にはあれだけあれば十分のような気もするんですけど……」
「まあ、無理にとは言わないけどね。せっかくだから、と思って。これだよ、一応見てみなよ」
岳志は、ポーチからビニールのラップに包まれた円筒形のチャラスを取り出すと、智の前にポンッと置いた。チャラスは、木のテーブルに当たってカタンと音を立てた。
「これは結構固いんですね」
「ああ、それはクリームじゃないからな。普通のチャラスだよ。でも、普段やる分にはそれで十分さ。クリームばっかりやってたらもったいないもの」
「そうですか。まあ、岳志さんがそう言うのなら……。じゃあ、これも貰いますよ。トラ二百五十だったらどちらにしろお値打ちですもんね」
智は、岳志が妙にその話をプッシュしてくるのが気にならない訳ではなかったが、あまり深くは考えないでそれを買うことにした。智の返事を聞いた岳志がアナンにそのことを伝えると、アナンは、席を立ってチャラスを取りに店の奥へと入っていった。その間にプレマが智にチャイを運んで来た。智は、サンキュー、と言ってチャイを受け取ると、一口啜った。熱いチャイからは湯気が立っており、ミルクと紅茶と香辛料の混じったかぐわしい香りが智の鼻腔を柔らかに刺激した。
しばらくすると満面の笑みを浮かべながらアナンが戻ってきて、チャラスを智に手渡した。智は、さっきポケットの中に仕舞い込んだ二百五十ルピーを再びアナンの手に戻した。アナンは満足そうに一枚ずつ札を勘定した。智は、何だか自分が店員の言いなりになって品物を買わされている、いいお客さんになったような気になっていた。しかし、自分の目の前に転がっている二つの黒い固まりが、智のそんな気分を既にどうでもいいものにしてしまっているのもまた、事実であった。智は、自分の物となったそれらのクリームを再び手に取って、愛おしそうに何度も何度も揉みほぐした。
「イッツ・ベリー・ナイス!」