世界一高品質

智は、ジョイントを一服吹かした。煙が智の体を循環するにつれ、音が一際大きなものとなって体内に飛び込んでくる。その度に智は、何か物理的な衝撃を受けたかのようにいちいちそれに反応する。青い壁や、その上に蛍光色で描かれた文字や絵が、智の目の中に飛び込んでくる。まるでケタミンの効果が再び表れ始めたかのようだ。

「サトシサン、マタ、ブリブリネ。イイカンジデスネ」

アリが、チャイのグラスを二つ手に持って笑顔で智の方にやってきた。そして智の正面へ腰を下ろすと、グラスを置いた。

智は、礼を言ってそれを一口啜った。熱い液体が口の中に注ぎ込まれると、物凄い甘さが智の味覚を刺すように刺激した。更に、ジンジャーやマサラの芳しい香りがそれに加わり、智の鼻腔は痺れるように感応した。智は、思わず朦朧として目を閉じた。

「オイシイデスカ?」

アリの問いかけに智はハッと我に返った。

「いや、このチャイ、おいしいなんてもんじゃないよ。おかしいな。こんなに甘いなんて。キマッてるからかな?」

智は、グラスの中の薄茶色の液体を繁々と眺め回した。

「ねえ、アリ。ひょっとしてこのチャラス、凄くいいやつなんじゃない?」

智は、もう一服大きくジョイントを吸い込むと、それをアリに手渡した。

「ソウデスネ。マアマアデスカネ。これは去年とれたクリームなんですけど、昨年はそんなに質が良くなかったし、もうとれてから半年ぐらい経っちゃってますからね……。その分少し劣化はしているでしょうし……」

智は、アリのその言葉を聞いて、今自分がどこにいるかということを改めて思い返した。

――― そうだ。俺は今、マナリーにいるのだ。世界一高品質のチャラスのとれる、マナリーにいるのだ。ヘロインばっかりやっててそのことをすっかり忘れてしまっていた! アリの言うクリームとはガンジャフリーク達にとっては夢のような存在で、その中の最高の物は世界中の裏世界のバイヤーが買い付けにくると言う……。そうだ! 確か理見がそんな風に言っていた……。ああ、理見か……。一体今頃どこで何をしているのだろう……。まだ一希と一緒にいるのだろうか…… ―――   

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