まるで自分が地球と一体になったような感覚。全ての物はひとつの所から発し、そしてまた、ひとつの所へ帰っていくという永劫の輪廻。自分の属する国や社会、世間、更には、人間という範疇からも解放された完全に自由な状態。自分と異なるあらゆる物を理解し、お互いを認め合う。自分との違いをそれらとの差として差別するのではなく、ただ、違いとして認識し合う。そこには最早、憎しみも争いも生まれない。あらゆる種類のあらゆる物が溶け合って、融合した、完全な世界。たったひとつの世界。
智は、そんな世界へ全てのものが飛翔していくさまを夢想していた。全てのものが、ただ、お互いを理解することだけを覚えれば、この世からあらゆる悲劇は霧消する。そしてその先で地球規模でのユニットは完成し、同時に、繋がり合った様々なものの精神や意識は、そのまま宇宙と直結して、宇宙そのものを形成する。
――― そうだ、俺達は宇宙なのだ。俺達一人一人、それぞれが宇宙のパーツであり、また、宇宙そのものなのだ ―――
智は、指先でつまみ続けていた枝先の若葉に再び目をやった。それは、太陽の光を一身に集め、溢れんばかりの生命力を漲らせながら眩く輝いていた。突ついたらはち切れそうな程、命に満ちていた。
この若葉は、これから世界の恩恵を受けながらどんどん成長し、枝となり、そして木となる。そしていずれは朽ち果てて土となり大地となって、あらゆる生命を育んでいく……。それは紛れもない自然の摂理だった。完全で、美しい、自然の姿であった。
――― 世界は美しい。こんなにも美しい。普段見逃してしまっている、こんな近くのこんな簡単なところに、全ての答えが示されているということを、今、俺は初めて知ったのだ。どうして今まで気が付くことができなかったのだろう? あまりにも当たり前すぎて、すっかり見過ごしてしまっていた。あんな何でもない小さなものが、この世に生まれ、そして太陽を浴びて成長していくというたったそれだけのことに、俺の求めている全ての答えが詰め込まれていた。生命の神秘が表現されていた ―――
智は、自分の探していた答えをこの小さな生命の中に見つけた気がした。
艶やかな葉の表面を、智は指先でそっと撫でた。指先は、冷たい朝の雫によって濡らされ、透明な日光を反射して眩い輝きを放った。見上げると、ヒマラヤ山脈は、朝日によって銀色に輝きながら天を真っ二つに切り裂き、真っ青な空は、そこから洩れだす青い血液のように世界全部を覆っていた。智は、それらをまるで自分の一部のような、とても近しいもののように感じると同時に、自分が、それら全てを統括する宇宙と一体化しているような、そんな感覚に捕われ始めていた。
智は、静かに目を閉じ心地良いその感覚を存分に楽しんだ。智の心は、とても平和で穏やかな感覚によって満たされていた ―――