テヘランでのケンカばなし

人間っていうのは面白いと思う。何が面白いって、色んな人がいるから面白い。
自分の思いつかないこと言う人やする人がいるから面白い。
でも、大人になるにつれてだいたい似通ってくる。 パターンが限られてくる。
多分、仕事や学校や何やかやで、色んな常識を身につけなきやならなくなるからだと思う。

そんな型通りの人と話してても、全然面白くない。
なぜなら言ってることや、やってることが大体想像の範囲をこえないからだ。
つまり大人なのだ。

反対に子供っていうのは自由だ。 常識なんて関係ない。
無茶苦茶なことを言うし、する。 見てるとハラハラドキドキする。
ときにはぶん殴りたくなるくらいムカついたりもする。
こっちの感情を激しく揺さぶる。
刺激的だ。

思えば、いわゆる第三世界と呼ばれるところにすんでる人達は、みんな子供なのだ
おっちゃんも、おばちゃんも、子供も、みんな。
だからみてると、とてもおかしい。
アジアなんか旅行してる人はきっと、そんなのが楽しくてやめられないんじゃないのかな。
そのせいか、旅行者も似たような人が多い。 無邪気な人が多い。
だから社会性がないのかもしれんが。

ぼくがイランで会った人もそんな人だった。
ぼくはイスラムの国々が大っ嫌いなんだけど、その大きな原因はイランにある。
とにかくイジメられた。とても理不尽に。 特に、貧乏人の子供達や若者に。
多分、ストレスがたまってるんだと思う。
あの国のシステムや、周りの国との軋轢や何やかやで。
他の旅行者も結構そんな目に会ってて、その人もそうだった。
いつも怒ってた。   

ある日のこと、彼が顔を真っ赤にして怒っている。
どうしたのかと聞いてみると、Tシャツにドロっと何かついている。
パン屋でケンカになってパンの素をベチャっとつけられたらしい。
ぼくに話しているうちにだんだんおさまらなくなってきて、カメラの三脚片手に文句いいに行くと言うから、ぼくもついていった。
あんまり大事にならんように。 

パン屋に入るやいなや、彼は日本語ですごい勢いで怒鳴り付けた。
それにこっちには、途中で勝手についてきたイラン人が5、6人いたので、向こうもさすがにビビってすんなりと謝った。
おわびにイランのパンを3枚よこした。
彼は初め、こんなもんいるか、とか言っていたんだけど現金なもので怒りがさめて
くるや、ムシャムシャ食べはじめ、うまいなあこれ、なんて言っている。

さっきまでえらそうに言ってたのに。  あんなにプリプリ怒っていたのに。
いやあ、うまいもんはうまいでしょう、と明るく言ってのけた。  そんときの笑顔っていったら子供のようだった。 ピカピカ輝いてた。
もういい年なのに。
ぼくもさすがに呆れて一緒にパンを食べた。 実際おいしかったけどなあ。

こんな、さっぱりした無邪気さが好きだ。
弁償だ、とか、示談だ、とか、ねちねち陰湿なのはイヤだね、全く。

さとうりゅうたの軌跡
さとうりゅうた 最初は欧米諸国を旅するが、友人の話がきっかけでアジアに興味を抱く。大学卒業後、働いて資金をつくり、97年4月ユーラシア横断の旅に出る。ユーラシアの西端にたどり着くまでに2年を費やす。

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