ぐったりと座り込んでいる心路は、顔を上げて直規を見て、ああ、と言った。直規は、好きなだけやれよ、と、粉の入ったセロファンを心路の方へ放り投げた。そしてそのまま、恍惚とした表情でベッドの上に倒れ込む。心路は、放り投げられたヘロインを手許へ引き寄せた。智は、二人にどう声をかけるべきか迷っていたが、そんなことを気にかけるよりも今吸ったヘロインが効き始めてきて、既にそれどころではなくなっていた。心路は床に倒れ込み、直規は、朦朧とした様子でふらつきながら体を起こした。そしておもむろにポーチを探ると何か錠剤を取り出し口に含んで、ガリガリとそれを噛み砕いた。しばらくすると、直規は、低く唸り声を上げながら身悶えし始める。直規の表情は、溶けてしまうんではないかというぐらいに、弛緩しきっている。視線は全く定まらず、智達の存在を認識しているかどうかということすら定かではない。完全に、どこか他の世界を見つめているようだった。そしてふらふらと立ち上がると、ヘッドフォンステレオを手に取って、扉を開けて出ていった。智が後を追ってみると、直規は、ソファに腰を下ろして大音量で音楽を聴いていた。かけているヘッドフォンから洩れてくるサウンドが、智の立っている所まで届いてくる。目を閉じ、首を左右に振りながら、時折、悶絶するように呻き声を上げている。
智が近寄ろうとすると心路が、サトシ、やめとけよ、放っときな、と声をかけた。
「バッテン喰ってんだよ。最近、ずっとああなんだ。放っとけばいいよ」
「でも……」
智は、心配そうに心路を見た。
「体、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。心配ない」
そう言いながら心路は煙草に火をつけた。そして一服大きく吸い込むと、ゆっくりと煙を吐き出した。外から入ってくる蛍光灯の青い光が逆光となって、心路のシルエットを鮮明に写し出す。吐き出された煙は、まるで生き物のように空間を泳ぎ、心路を取り囲むようにして広がっていった。その様子は、まるで心路の体が何か霊気のようなものを発しているかのようだった。
「あいつ、昔からああなんだ」
誰に話すともなく心路はそう言った。視線は、燃える煙草の先端に据えられている。
「昔からって?」
「智に言ってなかったっけ? 俺達のこと」