「それより、そうだよ、思い出した。二人ともひどいじゃん。プシュカルにいた時さ、突然女の子と消えちゃってびっくりしたよ。俺、独りぼっちで残されてさ。寂しかったんだぜ、あの後。あれからあの子とはどうなったのさ」
智がそう言うと、一瞬にして、直規の目付きが変わった。智の体は反射的に緊張した。それは、以前、直規が急に怒りだした時のあの目付きと一緒だった。心路もハッとした表情で直規を見つめ、場の空気が一気に緊張した。
「ああ、あれな。あれは、心路にとられちゃったんだよ。何だか知らないけど、あの女、心路にベタ惚れでさ。俺じゃあ太刀打ちできなかったって訳さ。ハハハハハ」
直規は、自分を嘲笑うかのように声を上げて笑った。
「直規くん……」
心路は、暗い表情で直規を見つめた。
「何だよ、本当のことだろ? お前、あの女とヤリまくってたじゃねえかよ」
「そんな言い方ないだろ? それにその話はもうしない約束じゃないか」
心路がそう言うと、直規は、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。智は、マズイことを聞いてしまった、と自分の発言を後悔した。
「ごめん、俺、何か変なこと聞いちゃったみたいで……」
智は、ばつが悪そうにそう言って謝った。
「もういいさ。それより、智、せっかく再会したんだし、やろうぜ、久々に」
直規は、智の顔を見ながらいたずらっぽく微笑んだ。もちろんブラウンシュガーのことだった。
「どうよ、やってる? あれから」
直規は、恐らく様々なドラッグがたくさん詰めこまれているであろう小さなポーチを開けて準備をし始めた。智は、何となく直規のその様子を眺めながらそれに答えた。
「ああ、最近はあんまりやってないんだけど、あれからしばらくはちょくちょくやってたよ」
「そっかあ。禁断は? 大丈夫?」
「それが、最近気が付いたんだ。何か体がだるいなあ、なんて思ってたんだけど、まさか禁断症状だなんて思ってなかったから。ある人に教えてもらってさ。それ、禁断症状だよって」
智は、建のことを思い浮かべた。智のイメージの中で、建は明るく笑っていた。何だかこれから自分が行おうとしていることが、自分を気遣ってくれた建に対する裏切り行為のような気がして、少し心が痛んだ。
「俺らなんて、ひどかったぜ。智と買いに行ったやつなんて、ものの一週間かそこらで無くなっちまって、そっから地獄のような毎日さ。心路とはどんどん険悪なムードになっていくし、ブラウン売ってる奴なんてなかなかいないしさ。そしたら偶然、ゴアで一緒に遊んでた日本人カップルとジャイプルで再会してさ。ほら、これ。貰ったんだよ」
直規は、子供のように明るい表情で、嬉しそうにポーチから取り出したものを智の前に置いた。それは、透明なセロファンで包まれた、真っ白い粉だった。