部屋にいる四人全員が、無言で智の指先に注目している。特にヤスは喰い入るようにして見入っている。部屋の中はしんと静まり返っており、智は、緊張して背中に冷や汗が流れるのを感じた。悪戦苦闘しながら、ようやくジョイントペーパーを一枚取り出して、さあ、巻こうというその時、指先が震えているのに智は気が付いた。ヤバイ、と思い、何とか抑えようとするのだが、そうすればする程指先は震えて言うことをきかない。二つ折りにされたペーパーは小刻みに震え、そこに乗せられたガンジャはベッドに敷いた紙の上に全て落ちてしまった。それを見ていたヤスは鬼の首でも取ったかのように、智に向かってわざとらしい大きな声で言った。
「あっれえ、どうしたんですか、智さん? こぼしちゃあマズイじゃないですか。それ、いいネタなんだから大事に扱って下さいよ。いつもジョイント巻いてるって言ってたじゃないですか。しっかりして下さいよ、全く」
智は、決してジョイントを巻くのが下手な方ではなかったが、もともと人前で何かをやるということが得意ではないため、こんなに注目された状況では緊張してしまってどうも上手くいかないのだ。苦笑いをしながら何とか巻こうとするのだが、どうしても手が震えてしまって結局巻くことができなかった。諦めて智はヤスにそれらを手渡した。
「ごめん。ちょっと緊張しちゃって上手くできないから、代わってくれるかな……」
ヤスは、智のそのセリフを聞くと精一杯侮蔑の表情を顔に浮かべて、大きな溜め息をわざとらしく一息ついた。
「なあんだ。自信が無かったんなら最初から言ってくれればいいじゃないですか。みんなが見てるからって無理しなくたっていいのに。分かりましたよ。俺が代わりにやりますから、ちょっと良く見ておいて下さいよ」
智は、頭に血が逆流していくのを実感として感じることができた。こんなに腹の立つ思いをしたのは、インド人以外では本当に久しぶりだった。しかし、結局何も言い返すことができずにそのまま下を向いた。悔しくて、涙がこぼれ落ちそうだったが、智は必死に我慢した。