「智さん、って言うんですか。俺、ヤスって言います。で、こいつは、ゲン」
角刈りは、最初に会った時と同じように顔をひくつかせる妙な笑い方をした。
「まあ、ちょうど良かったですよね。また今度、って言ってた所ですから。じゃあ、早速始めましょうか。マリファナ・パーティを!」
マリファナ・パーティ! おいおい、勘弁してくれよ、と智は心底げんなりした気分になった。しかしそれは表に出さずに、笑顔を作ってその気持ちを何とかごまかした。ヤスは、手に持っていた小さなポーチをベッドの上に置くと、智の隣に腰かけた。ゲンは、どちらのベッドに座ろうかちょっと迷っている様子だったが、結局、奈々の横に腰を下ろした。顔をひくつかせながらゲンは奈々を見た。奈々は、安代の腕にしがみつき、こわごわゲンを見返している。
「さあ、じゃあここは、旅の先輩の智さんにジョイントを巻いてもらおうかな。智さんもよくガンジャやるそうだから、きっと巻くの上手いんでしょうね。年期が入ってて」
「いや、そんなことないよ。俺、巻くのはそんなに上手い方じゃないし……」
智は、一刻も早くこの状況から抜け出してしまいたかった。こんなことなら独りぼっちの自分の部屋の方が何倍もマシだった。
「またまた。そんな謙遜しないで下さいよ。よく見てますから、智さんのテクを是非、伝授して下さい。お願いしますよ」
智は心の底からヤスを軽蔑した。この厭味な態度と口のききかた。智にプレッシャーを与えようとしているのだ。そして、出来上がったジョイントに難癖つけてけなし、みんなの前で恥をかかせようとしているのだ。ヤスが何とか智を陥れようとしていることは、部屋に入ってきた時から智を見るその目付きですぐに分かった。智は、そういうことに関しては人一倍敏感なのだ。
ヤスは、智の言うことなど全く無視して、ポーチからガンジャの入ったパケットやジョイントペーパー、フィルター用の厚紙などを次々と取り出していく。
「じゃあ、智さん、ひとつお願いします。このネタ、中々いいんですよ。初めて吸った時はあんまりキマるんでびっくりしちゃいました。しばらく動けなかったぐらいですよ。ハハハハハ」
ヤスは大きな声でわざとらしく笑った。智は、そんなヤスを後目に渋々それらを受け取った。
まず、パケットからガンジャを取り出して紙の上でほぐし始めるのだが、良く見てみるとそれらは、殆どがカサカサの葉っぱの部分ばかりで一番良く効くバッズの部分は無いに等しく、とても上物と言うには程遠いような代物だった。おまけに種だらけで、それを選り分けるのにはかなりの時間を要した。ヤスが、早くしてくれよ、と、言わんばかりの表情で智を見ている。智は、種が多くってさ、と少し皮肉を込めてヤスに言い訳がましく言ってみたものの、ヤスはその皮肉には全く気が付いていないようだった。
「ちょっとぐらい、種、混じっててもいいですよ」
「でもさ、吸ってるとパチパチ弾けるだろ?」
智がそう言うと、ヤスは、まあ、どうでもいいから早くして下さいよ、という風に肩を
すくめて天井を見上げた。智は、再び愛想笑いでごまかすと作業を進めた。