二人はメインバザールの雑踏をしばらく歩くと、オートリキシャを停めた。建は、リキシャドライバーとバスステーションまでの値段交渉を始めた途端、相当吹っかけられたらしく、ふざけるなよ、お前、と言ってオートリキシャのボディを、バン、と強く叩いた。そして建の方から半ば強引に値段を決めつけると、ドライバーは、両手を広げて渋々それを受け入れ、エンジンをかけた。智は、早速やってるよ、と心の中で呟きながら、その様子を微笑ましく見守った。
「じゃあな、智。元気でな」
リキシャに乗り込んだ建が智の手を握った。
「建さんも。あんまりインド人と揉めない様にして下さいね」
智は建の手を握り返した。
「分かってるって。大丈夫だよ」
建の手は固く、そして力強かった。
リキシャが走り始めた。
「智、またどこかでな」
建は、リキシャから身を乗り出して智に言った。
「健さん、気を付けて」
智がそう声をかける頃には、建を乗せたリキシャはかなり遠くの方まで走り去っていた。リキシャから身を乗り出しながら、建は大きく手を振った。智も、全身を使ってそれに負けないぐらい大きく手を振りながら、お元気で、と大声で叫んだ。建の姿が見えなくなるまで、智はいつまでも手を振り続けた。